Q&A「改正少年法」



参議院本会議にて提案者として答弁
(平成12年11月8日)

 
 「改正少年法」について、Q&Aとして解説を掲載いたします。
 皆様の理解の一助になれば幸いです。

 少年による重大で、特異な犯罪が社会に大きな影響を与える中で、少年犯罪の適正な対処を目指すための「改正少年法」が、11月28日衆議院本会議にて、与党3党と民主、自由両党などの賛成多数で可決され、成立しました。施行は来年4月からとなります。

 漆原良夫は、提案者として本会議で答弁する等、法案成立へ全力で取り組んでまいりました。
 皆様のご支援・ご協力、誠にありがとうございました。



 公明党は、少年法の改正だけで少年犯罪が解決するとは考えておりません。少年の健全育成と非行防止、罪を犯した少年の更正や社会復帰の支援など総合的な取り組みが必要です。そこで、少年法の改正と平行し、「少年犯罪は大人社会の歪みの影響」との視点から、少年問題への対応として、党内に「青少年健全育成等プロジェクト」(座長:浜四津敏子代表代行)を設置し、積極的に取り組んでいます。11月2日には、森総理に「少年の更生・社会復帰への支援拡充に関する緊急提言」(資料編参照)を提出しました。

 公明党は、少年法にある「保護主義」の精神を弱めることには反対です。例えば、今回の改正案でも、「16歳以上で凶悪事件を起こした少年を、成人と同じ刑事裁判にかける規定も、自民党案では、対象犯罪に強盗や婦女暴行なども含んでいました。しかし公明党は、それでは対象犯罪が広すぎるとして、犯罪の対象を「故意の殺人」に限定させました。







《Question》

Q1:「改正前の少年法」の手続きを教えて下さい?

Q2:少年法を改正する理由と、改正点は?

Q3:最近の少年による凶悪重大事件とは

Q4:山形マット死事件とはどんな事件ですか

Q5:刑事処分可能年齢を16歳から14歳に引き下げる理由は

Q6:刑事処分可能年齢を引き下げることは、少年法の「保護処分」の理念に反しませんか?

Q7:14歳、15歳の少年を刑務所に収容するのは、義務教育の上からも不適当では?

Q8:外国での刑事処分の年齢区分は?

Q9:原則逆送制度を設ける理由は何ですか? また、どのような事件が原則逆送となるのですか?

Q10:原則逆送制度は、少年法の「保護処分優先主義」の理念に反しませんか?

Q11:原則逆送制度によって、事件への関与の度合いの低い者まで逆送されませんか?

Q12:少年事件に裁定合議制度を導入する理由はなんですか?

Q13:少年事件に検察官を関与させるのはなぜですか?

Q14:検察官はどんな事件に関与するのですか?

Q15:検察官による抗告受理の申し立て制度とは?

Q16:抗告権と抗告受理の申し立てとの違いは何ですか?

Q17:抗告受理制度は、実質的に検察官の上訴権を認めるものであり、審判の長期化を招くのでは?

Q18:被害者への配慮に関してどのような改正がなされたのですか?






《Answer》

Q1:「改正前の少年法」の手続きを教えて下さい?
《成人の場合》
成人による事件では、
 @警察、検察庁で捜査を行います。
 A検察官が地方裁判所に起訴します。
 B公開の法廷で審理が行われ、刑が確定します。

《14歳〜19歳の場合》
 @警察、検察官が捜査を行います。
 A検察官はすべての事件を家庭裁判所へ送致します。(全件送致主義)
 B家庭裁判所で非公開で審判し、保護処分(★1)を言い渡します。

〈上記Bで刑事処分が相当と認められる時〉
 C検察官へ送致(逆送)します。
  (但し、決定時16歳以上の少年に限られます)
 D検察官が地方裁判所へ起訴します。
 E公開の法廷で審理が行われ、刑が確定します。 
★1:保護処分⇒少年院送致や保護観察のこと。

《13歳以下の場合》
 刑法の規定で、刑事責任年齢が14歳以上となっているため、刑事処分はできません。




Q2:少年法を改正する理由と、改正点は?
 今回の少年法の改正は以下の3つの柱から成り立っています。


【1.少年事件の処分の見直し】

 近年の凶悪重大犯罪が相次いで発生するなど、少年犯罪の動向には深刻なものがあります。人の命の大切さを教え、罪を犯せば罰せられるということを明示して、規範意識を育てるとともに、社会生活における責任を自覚させる必要があります。その意味から少年事件の処分のありかたとして下記の改正が行われます。
@刑事処分が可能となる年齢を、改正前の16歳以上から、14歳以上に引き下げる。(前述のとおり刑法では、刑事責任年齢を14歳と定めてありますので、その年齢と同じになります)
A犯行時16歳以上の少年が故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた場合は、原則として検察官へ送致する。(原則逆送)


【A少年審判の事実認定の適正化】
 平成5年に起こった「山形マット死事件」(後述)で、少年審判における事実認定のあり方が問題とされました。適切な処分を施すためには、的確で信頼できる事実認定が必要です。そのための改正点は次の点です。
@少年審判でも3人の裁判官による審判(裁定合議制度)ができるようにする。(改正前は1人)
A少年審判に検察官が関与できるようにする。
B少年審判の間、少年鑑別所に収容できる観護措置期間を延長する。(改正前の最大4週間から、最大8週間へ延長)


【B少年事件の被害者への配慮】
 少年審判は非公開であるため、少年事件の被害者には、事件の内容が判らない、意見を述べる場もない等の問題があったため、被害者への配慮を充実するため次の点が盛り込まれています。
@少年審判で、被害者の申し出による意見聴取の制度を導入する。
A家庭裁判所が少年審判の結果を被害者に通知する制度を設ける。
B被害者に対し、一定の範囲で記録の閲覧・謄写を認める。




Q3:最近の少年による凶悪重大事件とは
 近時、少年による凶悪重大事件が相次いでおり、大変憂慮すべき状態にあります。本年(平成12年)5月以降に発生した事件だけでも次のとおりです。

【愛知豊川主婦殺害事件】
 平成12年5月1日、愛知県豊川市の私立高校生(当時17歳)が、地元の主婦(当時65歳)を包丁でめった刺しにして殺害したとされる事件です。
 本人が動機について「人を殺す経験をしようと思った」と述べたことから、「殺人のための殺人」とか「退屈からの殺人」などと評されています。捜査段階での精神鑑定では、少年に事件当時責任能力があったと判断され、家庭裁判所に送致されました。名古屋家庭裁判所は、少年の犯行当時の精神状態や動機を解明するには再度の精神鑑定が必要であるとして、平成12年8月24日、精神鑑定を行うことを決定するとともに、同年11月23日までの鑑定留置(★1)が決定されました。


【西鉄高速バス乗っ取り・殺傷事件】
 平成12年5月3日、佐賀市の無職少年(当時17歳)が包丁を持って佐賀発福岡行きの西鉄高速バスを乗っ取り、高速道路を広島県まで走行させ、その間、女性客(当時68歳)を刺殺し、数名に傷害を負わせたという事件です。
 この事件は、医療保護措置で入院中の少年が、療養所から一時帰宅した際の犯行であり、動機についても「派手なことをして、社会に自分をアピールしたかった」「入院させた両親に復習したかった」などと述べたことから、責任能力の存在も争われましたが、平成12年9月29日、佐賀家庭裁判所は、事件当時の少年の責任能力を認めた上で、精神鑑定の結果において「解離性障害や行為障害の症状」が指摘されていることを受け、保護処分としての医療少年院送致を決定しました。


【岡山金属バット殴打等事件】
 平成12年6月21日、岡山県の県立高校で、高校3年生の生徒(当時17歳)が、野球部の後輩4人を金属バットで殴打し重軽傷を負わせた後、自宅に戻って母親(当時42歳)を別のバットで殴り殺したとされる事件です。
 後輩に対する殴打については野球部内でのいじめが原因だったとされますが、母親殺害については、少年は「犯罪者の母として周囲から白い目で見られるのが耐えられない」「病気がちな母に負担をかけたくなかった」などという動機を述べています。
 検察庁は家庭裁判所への送致の際、刑事処分相当との意見を付けましたが、岡山家庭裁判所は、平成12年8月31日、少年を特別少年院に送致する旨の決定をしました。


【大分一家6人殺害事件】
 平成12年8月14日、大分県の県立高校1年生の男子生徒(当時15歳)が、近所の家に風呂場の窓から侵入し、一家6人(当時66歳から11歳まで)をサバイバルナイフで次々と殺傷したとされる事件です。
 少年は、動機について「下着盗が発覚しないように口封じのため全員の殺害を図った」などと述べていますが、付添人から、「動機と犯行の重大性の間に大きな隔たりがあり、犯行当時、正常な判断能力があったかを解明する必要がある」などとして、精神鑑定の申請がなされたことから、大分家庭裁判所は、平成12年9月8日、少年に対する精神鑑定を行うことを決定するとともに、同年12月5日までの鑑定留置(★1)を決定しました。



★1:鑑定留置
 少年の心神又は身体に関する鑑定をするに当たって、継続的な処置や観察などを必要とする場合、裁判所が期間を定めて少年を病院等の相当な場所に留置すること。刑事訴訟法167条以下に規定があり、少年法14条で少年事件にも準用される。尚、鑑定留置によって勾留等の執行は停止される。と解されている。




Q4:山形マット死事件とはどんな事件ですか
 平成5年1月、山形県新庄市の明倫中学において、少年ら7名が共謀の上、被害者をロール上のマットに逆さに押し込み窒息させたとして逮捕、補導された傷害致死事件です。
 少年らは捜査段階での自白をくつがえし、審判段階ではアリバイを主張し、非行事実を否認しました。山形家庭裁判所は少年3名に対しアリバイの成立を認め、「非行なし」を理由に不処分決定をし、他の3名の少年に対し非行事実を認定して少年院送致または教護院送致の保護処分をしました。保護処分を受けた少年らが抗告したところ、仙台高等裁判所は平成5年11月29日抗告棄却決定をしましたが、その決定理由中において、抗告審の審判対象少年らの事実認定に影響があるとの観点から、不処分決定を受けた少年らのアリバイの成否について検討し、そのアリバイが成立しないとの判断を示し、家庭裁判所と高等裁判所が異なった事実認定を行ったことで注目を集めた事件です。




Q5:刑事処分可能年齢を16歳から14歳に引き下げる理由は
 近年、14歳、15歳の年少少年による凶悪重大事件が後を絶たず憂慮すべき状況にあります。改正前の少年法では、16歳未満の少年は、刑法の刑事責任年齢(14歳以上)の規定にかかわらず、いかに凶悪重大事件を犯そうとも、刑事処分にすることができないことになっていました。
※現行刑法では、14歳以上であれば刑事処分を課すことができることになっています。しかし、改正前の少年法では、刑法の例外として、16歳以上でなければ刑事処分にすることができないとされていました。
 しかしながら、この年齢層の少年であっても、罪を犯せば処罰されることがあることを明示することにより、規範意識を育てるとともに、社会生活における責任を自覚させる必要があります。また、このことが少年の健全な成長を図ることになると考えられます。
 そのため、刑事処分可能年齢を刑法における刑事責任年齢に一致させて、14歳まで引き下げることとしたものです。




Q6:刑事処分可能年齢を引き下げることは、少年法の「保護処分」の理念に反しませんか?
 少年法は、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うこと」等を目的とするものであり(少年法第1条)、少年の健全育成という立場は、今後とも堅持すべきものと考えます。
 しかし、少年法は、個々の事案や犯罪を犯した少年の特性等に応じ、刑事処分を含めた多様な処分を用意してあります。少年に対し、事案に応じてより適切な厳しい処分により、その責任の自覚を促すとしても、少年の健全育成という目的に反するものではありません。
 刑事処分可能年齢を引き下げることにより、14歳、15歳の少年については、処分の選択の幅が広がることとなりますが、個々の事案においては、少年の性格や心身の発達状況のほか、犯行の動機および態様、犯行後の情況等の事情を家庭裁判所がきめ細かく検討し、刑事処分を相当と認める場合に逆送することとなるのであり、裁判所において、最も適切な処分が選択されることになります。




Q7:14歳、15歳の少年を刑務所に収容するのは、義務教育の上からも不適当では?
 懲役や禁錮の判決を受けた少年に対しては、16歳に達するまでは少年院において刑を執行し、矯正教育を授けることができるようにすることとしています。少年院では、少年を社会生活に適応させるため、小学校・中学校の教科教育はもちろんのこと、職業補導や訓練も行っていますので、従来から義務教育年齢にある年少少年を収容して成果をあげています。したがって、懲役や禁錮の言い渡しを受けた少年に対しても、年齢に応じた充分な教育が施されますので、問題ありません。




Q8:外国での刑事処分の年齢区分は?
 ★諸外国でも14歳程度でも刑事罰を科せる国が多いようです。
国名 少年法適用年齢 刑事責任年齢 刑事罰を科しうる年齢
日本 20歳未満 14歳以上 16歳以上
アメリカ 16歳〜18歳未満
州により異なる
コモンローは7歳以上
特に定めない州が多い
14歳以上の州が多い
イギリス 18歳未満
(21歳未満まで特例あり)
10歳以上 10歳以上
カナダ 18歳未満 12歳以上 14歳以上
ドイツ 18歳未満
(21歳未満まで特例あり)
14歳以上 14歳以上
フランス 18歳未満 13歳以上 13歳以上
イタリア 18歳未満 14歳以上 14歳以上
韓国 20歳未満 14歳以上 14歳以上



Q9:原則逆送制度を設ける理由は何ですか? また、どのような事件が原則逆送となるのですか?
 少年法では、保護処分とするか、刑事処分を相当として検察官に送致(逆送)するかは家庭裁判所の裁量(判断)にゆだねられています。現在の審判は保護処分を優先して適用する考えがとられており、凶悪犯でも逆送になるのはかなり低い率となっております。
(逆送率: 殺人⇒20〜30%、強盗⇒1〜4%、強姦⇒2〜9%)
 しかしながら、故意の犯罪行為によって被害者を死亡させるという重大な罪(★1)を犯した場合には、たとえ少年であっても刑事処分の対象となるという原則を示すことにより、何者にも代えがたい人命を尊重するという基本的な考え方を明らかにし、少年に対して自覚と自制を求める必要があります。
 そこで、犯行時16歳以上の少年が、故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた場合には、原則として検察官送致決定(逆送)をする制度です。

 但し、これらの事件はすべて必ず逆送しなければならないわけではありません。個々の事案においては、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、行状及び環境等の事情を家庭裁判所がきめ細かく検討し、保護処分が適当と考えられる場合には、逆送せずに保護手続きを選択する等、最も適切な処分が行われます。

★1:「故意の犯罪行為によって被害者を死亡させる罪⇒殺人、傷害致死、強盗致死など




Q10:原則逆送制度は、少年法の「保護処分優先主義」の理念に反しませんか?
  少年法には、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うこと」等を目的とするものであり(少年法第1条)、少年の健全育成という立場は、今後とも堅持すべきものと考えます。
 しかし、少年法は、個々の事案や犯罪を犯した少年の特性等に応じ、家庭裁判所がきめ細かく検討し、刑事処分を相当として逆送できることとしているのであり、人を死に至らしめるような特に凶悪重大な事件に限って、原則として逆送することとしても、少年の健全育成という目的に反するものではありません。




Q11:原則逆送制度によって、事件への関与の度合いの低い者まで逆送されませんか?
 原則逆送制度を導入したとしても、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を適当と認める事情がある場合は、保護手続きを選択することができるとされています。事件への関与の度合いは、「犯行の態様」に含まれる事情でありますが、共犯事犯における首謀者と付和雷同者、実行犯と見張りなど、個々の事案においては、裁判所によってその点を十分に斟酌した上で、最も適正な処分が選択されることになります。




Q12:少年事件に裁定合議制度を導入する理由はなんですか?
 改正前の少年法では、家庭裁判所は、どんなに複雑な事件や重大な事件でも、1人の裁判官が審判を行うこととされていました。(単独制)
 しかし、少年事件でも、複雑、困難な事案が見られるようになっていることから、事件によっては3人の裁判官の合議体で審理を行うことができることとしました。(合議制)
 これにより、多角的な視点により、判断の客観性を高め、さらに各裁判官の知識経験を活用することができるというメリットがあります。

★裁定合議制度⇒合議制にする事件を予め法律で定めておく場合を「法定合議制」といい、事件ごとに裁判所の判断にまかせる場合を「裁定合議制」といいます。




Q13:少年事件に検察官を関与させるのはなぜですか?
 改正前の少年法では、検察官は、事件を送致した後は、少年審判に全く関与することができず、少年審判は家庭裁判所と、事件を起こした少年、保護者、付添人だけで手続が進められています。

 しかし、これでは被害者や遺族にとっては、家庭裁判所は少年側の言い分だけを聞いて審判を行っているのではないかとの疑念も生じてきます。少年審判でも、一定の重大事件では検察官が関与し、家庭裁判所が的確な事実認定ができるような仕組みを作っておくことが、事実認定手続に対する被害者や国民の信頼を確保するために不可欠です。
 その上、実際の審判を行う上でも、証拠の収集やその評価の上で、家庭裁判所や少年側以外の視点を入れることが、より的確な事実認定につながります。また、裁判官が少年に事実をただそうとすれば、少年からの信頼を失いかねず、かといって少年の言い分にばかり耳を傾けては、十分な事実認定ができないというジレンマも、検察官が立ち会っていれば回避できます。

 そこで、今回の改正では、家庭裁判所は、
@故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪
A短期2年以上の懲役又は禁錮に当たる罪
 上記の事件で、その事実認定手続に検察官が関与する必要があるときは、検察官を関与させることができることとしました。
 また、この場合に、少年の権利保護のため、少年に付添人(弁護士)がいないときは、国選付添人(弁護士)を付けることとしています。




Q14:検察官はどんな事件に関与するのですか?
 検察官は、社会的に見て重大な一定の事件に関与するのが適当なので、
@故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪
A短期2年以上の懲役又は禁錮に当たる罪
 の事件で関与することとなり、この結果、殺人(3年以上)、傷害致死(2年以上)、強盗(5年以上)、強姦(2年以上)といった凶悪重大な事件に限定されます。
 反対に関与できない事件としては、傷害(10年以下)、窃盗(10年以下)、恐喝(10年以下)、強制わいせつ(7年以下)、逮捕監禁(5年以下)などです。




Q15:検察官による「抗告受理の申し立て」制度とは?
 改正前の少年法では、家庭裁判所の決定に対しては、少年側だけが高等裁判所に抗告(不服の申し立て)できることとなっていました。しかし、家庭裁判所が誤った決定をした場合に、少年側が抗告しなければ、上級審による見直しの機会が全くないのでは、到底被害者やその遺族の納得が得られません。
 検察官による「抗告受理の申し立て」とは、検察官に権利としての抗告権を認めるものではなく、検察官が重大な事実誤認があるとして、抗告受理の申し立てをした場合に、高等裁判所において、適切にその申し立ての適否を判断して、相当であると認めた場合に抗告を受理するものであり、これにより重大な事実誤認等による誤った審判について上級審における見直しの機会を確保しようとするものです。

※山形マット死事件(前述)では、家庭裁判所が3名の少年にアリバイの成立を認め、「非行なし」を理由に不処分決定をした審判に対して、検察官や被害者の遺族から不服申し立てができませんでした。




Q16:抗告権と「抗告受理の申し立て」との違いは何ですか?
 抗告権であれば、家庭裁判所の審判に対し不服の申し立て(抗告)を行った場合に、高等裁判所では常に抗告審として事件の審理を行い、判断を下すことになります。
 これに対し、「抗告受理の申し立て」では、検察官の抗告受理の申し立てについて、高等裁判所が相当と認めた場合に限り、その申し立てを受理し、事件を審理(抗告審)することとなります。
 したがって、高等裁判所が不相当と認めた場合は、抗告審は係属せず、少年は早期に手続から開放されることとなります。




Q17:抗告受理制度は、実質的に検察官の上訴権を認めるものであり、審判の長期化を招くのでは?
 抗告受理の制度のもとでは、検察官に権利としての抗告権を認めるものではなく、裁判所において、適切に抗告受理の申し立ての適否及び審理の必要性を判断して、抗告を受理するか否かを決定することとなります。
 今回改正された法案では、抗告受理の申し立てをする場合には原決定から2週間以内にしなければならないものとされ、高等裁判所も原裁判所からの抗告受理の申立書の送付を受けてから2週間以内に抗告を受理するか否かを決定しなければならないとしています。これによって、抗告が必要とされない事案は早期に決着が図られるように手当てされています。
 また、受理された事件についても、抗告審は改めて事件を審理する続審ではなく、原決定の当否を審理する事後審の構造を採用しており、少年法の趣旨を踏まえて迅速に判断がされますので、不当に審理が長引くという問題は生じません。




Q18:被害者への配慮に関してどのような改正がなされたのですか?
 改正前の少年法では、少年審判は非公開であるため、少年事件の被害者には、事件の内容が判らない、意見を述べる場もない等の問題がありました。そこで、被害者への配慮を充実するために次の点が盛り込まれています。
@少年審判で、被害者の申し出により、家庭裁判所又は家庭裁判所調査官が被害者から意見を聴取する制度を導入する。
A家庭裁判所が被害者に対し、少年審判の結果等を通知する制度を設ける。
B被害者に対し、審判中及び審判確定後、一定の範囲で非行事実に関する部分の記録を閲覧したり謄写することができるようにする。