令和3年1月26日
【まん延防止等重点措置。中身は、政府に‘丸投げ’
 
− 過度な政令委任は、立法府の責任放棄 −

 

○先に私は、「予防的措置の新設は、将来に禍根を残す」と意見を述べましたが、その後政府は「予防的措置」を「まん延防止等重点措置」と名称を変えてその内容を明らかにしました。基本的には、予防的措置について述べた通りですが、今回は法文にそって意見を述べたいと思います。

○立法府には、規制強化によって奪われようとしている国民の権利・利益を擁護してほしいと思います。

・政府は、新型インフルエンザ特措法と感染症法の改正を「感染予防」と「実効性の確保」を旗印にして早期の成立を目指しています。菅総理は、ほんの1か月ほど前には「特措法改正は、コロナが収束して落ち着いた環境の中で議論する」と言っていましたが、今や「特措法の改正を1月中に成立させ、2月半ばから施行したい」と答弁しています。あまつさえ、緊急事態発令以前にも国民の権利・利益を制約できる「まん延防止等重点措置」までも新設しようとの豹変ぶりです。
・コロナの感染爆発による国民の不安を解消したいとの総理の気持ちは十分理解できます。しかし、感染防止、実効性の確保という規制強化によって、営業活動の自由ほか貴重な権利・利益を損なわれる国民の立場にも十分な配慮がなされるべきであります。その意味では、コロナが収束して落ち着いた環境の中で議論したいといった菅総理の考えは正しいと思います。

○次に、まん延防止等重点措置の内容について検討します。

1、立法府(国会)の関与がありません。

@「まん延防止等重点措置」を発令する「要件」が、政令に丸投げされています。
 改正法では「新型インフルエンザのまん延を防止するため」「政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるとき」に発令されることになっています。
 従って、国民の権利や自由を制限する措置の発令に立法府たる国会が一切関わらず、政府に一任されているのです。

A罰則の前提となる都道府県知事の「協力要請の内容」がこれまた政令に一任されています。
 例えば、時短や休業の命令、一定地域への立ち入り禁止の命令など、国民に「何をすべきか」、「何をすべきでないか」を立法府の関与なく、内閣が決定することになっています。

B緊急事態宣言を発令した場合には、内閣に国会報告を義務付けていますが、まん延防止等重点措置の場合には、国会報告は不要です。これでは、均衡を失します。

C新設される「まん延防止等重点措置」によって、罰則をもって時短や休業を強制される国民は、回復しがたい損害を受けることが予想されます。このような重大な事態に立法府たる国会が全く関与せず、政府に一任することは、立法府の自殺行為に等しい。


2、憲法第29条との関係

・特措法63条は「新型インフルエンザ等及びまん延の防止に関する措置が事業者の経営及び国民生活に及ぼす影響を緩和し、国民生活及び国民経済の安定を図るため、当該影響を受けた事業者に対する支援に必要な財政上の措置その他の必要な措置を効果的に講ずるものとする」と明記する。

・憲法29条3項の「正当な補償」との関係が不明確です。

・「支援に必要な財政上の措置」の内容を明確にすべきです。


3、際限のない「国民の権利や自由制約」の根拠に

・新型インフルエンザ等対策特別措置法では、国民の権利・自由制約の根拠を「緊急事態の発生」としています。しかし、今回の「まん延防止等重点措置」は、「まん延を防止するため」緊急事態の発生前に、これを前倒しするものです。
 国民の権利・自由の制約を、これまでの客観的要件から、「まん延の予防」という主観的要素に係らしめた事によって、著しく曖昧、不安定になったと思います。

・「予防のため」という要件は、危険であれば「予防のための予防措置」も可能となり、何の制約にもなりません。
国民の不安に便乗し「不安が通れば、道理が引っ込む」と言った愚は、断じて繰り返してはならないと思います。


4、最後に、東京都と官邸の「午後8時の時短」を巡るバトルを思い出します。
 結局、まん延防止等重点措置の構想は、緊急事態宣言を発令したくない官邸と時短要請に実行力を持たせたい東京都の思惑が一致した合作です。そこには、危機を理由にして国民を如何に制御するかという統治者の思惑があるのみで、権利や自由を制約される国民に対する配慮は残念ながら認められません。
                       
以上

2021.1.26
公明党顧問 漆原 良夫