○ 苦労人で気さくな菅さんに似合わない強硬政治に驚いています。
そうです!日本学術会議の会員候補のうち6人を、菅総理が任命しなかった問題です。
日本学術会議法では「優れた研究・業績がある科学者のうちから会員候補を選考し首相に推薦する」、「推薦に基づき首相が任命する」と定めています。問題は、学術会議が推薦した候補について首相が「ノー」と言えるかどうかです。
この点について1983年、当時の中曽根康弘首相は、日本学術会議法は「会員は学術会議が推薦し、首相が任命する」と定めているが「実態は、各学会が推薦権を握っている 。(任命という)政府の行為は、形式的行為と考えれば、学問の自主独立はあくまでも保証される」と国会で答弁しています。
この中曽根首相の考えは、学問の自由と自治を尊重するという思想に基づくものです。政府は従来この考え方のもと、会員の改選時には、学術会議の推薦の通りに任命してきたのです。
〇 しかしこの度、菅首相は「任命する立場に立って精査していくのは当然」(加藤勝信官房長官)、「内閣総理大臣に、(日本学術会議)による推薦の通りに任命すべき義務があるとまでは言えない」として、6名の候補者の任命を拒否したのです。
学術会議の推薦を拒否できるという菅首相の考えは、「実態は、各学会が推薦権を握っている。(従って任命という)政府の行為は形式的行為」とする中曽根首相の考えと真逆の考え方です。そして、菅首相の考えには、学問の自由や自治といった人権に対する配慮が希薄だということです。
政府は、1983年の中曽根首相の国会答弁との整合性を説明すべきです。また政府は、今回の解釈は、これまでの解釈を変更したものではないと強弁しているようですが、牽強付会に過ぎ、とても一般国民の理解を得ることはできないでしょう。
○ さて問題は、6名の候補者が任命を拒否された理由は何か、という事です。菅首相は「法に基づいて適切に対応した結果です」、「総合的・俯瞰的な活動、すなわち広い視野に立ってバランスの取れる活動を行い、国の予算を投じる機関として、国民に理解される存在であるべきこと」と説明をしています。
これでは、6名の候補者が具体的に何故任命を拒否されたのか、さっぱり分かりません。日本学術会議の梶田隆章会長は「(任命を拒否された)理由を教えてもらわないと学術会議として何をすればいいのかわからない」と述べておられますが、全くその通りだと思います。
今回任命を拒否された6名には、共通点があります。6名の学者は、いずれも人文・社会科学の専門家であり、「平和安全法制」、「共謀罪」、「特定秘密保護法」といった安倍前内閣の重要法案について批判的な意見を述べておられたということです。時の政権の意に沿わない学者を人事で排除する意図があったとすれば、「学問の自由」を侵害しかねない由々しき問題です。
○ 菅内閣発足から1か月が経過しました。携帯電話料金の値下げ、「行革110番」、不妊治療費の保険適用、デジタル庁の発足などスピーディーな取り組みに、多くの国民は、菅政権を好意的に評価しています。
しかし、6名の任命拒否問題に関しては、最近の世論調査によれば63%(朝日新聞)から72%(共同通信社)の国民が、任命拒否に関する政府の説明を「説明不十分」と感じているのです。
26日から、臨時国会が開催されます。代表質問や予算委員会でこの問題が議論されると思います。国民に分かりやすく、丁寧な説明がなされることを期待します。
以上
2020年10月20日
公明党顧問 漆原 良夫