平成30年8月2日
通常国会を振り返って】
 
8月、猛暑が続きます。熱中症に気をつけ、ご自愛くださいますようお願い致します。
通常国会が終わりました。最近は、自民党総裁選に関する記事が新聞紙上を賑わしていますが、いろいろなことがあった通常国会を一度振り返ってみたいと思います。

 

行政文書の「改竄、廃棄、隠蔽」問題

〇防衛省が、「存在しない」と国会で説明をしてきた陸上自衛隊のイラク派遣時の「日報」が、次から次へと発見され、小野寺防衛大臣が毎日のように記者会見で「お詫び」されている姿が昨日のことのように思い出されます。
 多くの国民は、わが国のシビリアンコントロール(文民統制)は大丈夫なのかと心配しました。

〇しかし、公文書や情報管理に関する不祥事は、単に防衛省だけでは済みませんでした。内閣府、文部科学省、厚生労働省にも波及し、本年3月には、森友学園への国有地売却を巡り、財務省の行政文書の「改竄、廃棄、隠蔽」問題が発覚しました。

〇ここで大事なことは、国会における審議は、役人が作成した行政文書を基にして行われる場合が多いと言うことです。
 国会議員は、行政手続きの適正性・公正性を審査するため役人に対して、政策決定の基礎になった文書や資料の提示を求め、その文書や資料を基にして審議を行います。しかし、その大事な「証拠」と言うべき文書や資料を役人が勝手に書き換えたり、捨てたり、隠したりしたら、立法府は一体どうやって行政の適格性や公正性を糾すことができるでしょうか。
 行政文書の「改竄、廃棄、隠蔽」は、国会の行政監視という民主政治の根幹に関わる重大な問題です。

〇一連の行政文書の「改竄、廃棄、隠蔽」問題は、行政府が1年間もの長きにわたって「在るものを無い」と言ったり、「文書の内容を書き換えたり」して立法府を騙し続けてきたと言うことです。
 国会は、国権の最高機関として「行政を監視」する機関であって、決して行政の追認機関であってはならないのです。
 その意味で、この問題は、国会の存在意義に関わる問題であって、「原因の究明」と「再発防止」に与野党を超えた厳しい対応がなされるべきです。

〇今国会では、総理出席の予算委員会で「モリ・カケ」などの不祥事追及を中心に「19回、83時間」にも及ぶ集中審議が行われました。更に森友問題では佐川前国税庁長官、加計問題では柳瀬元首相補佐官の証人喚問が、それぞれ衆参両院で行われました。
しかし、世論調査では、70%以上の国民が「モリ・カケ」問題について「総理の説明に納得していない」と答え、新聞各紙も立法府の「行政監視」に疑問符をつけています。

〇通常国会が終わりました。立法府として、行政文書の「改竄、廃棄、隠蔽」問題について十分国民の期待に応える事が出来たか、検証する必要があると思います。
そして、立法府主導の下に「原因究明」と「再発防止策」が講じられることを強く期待します。
 国会改革を目指して、小泉進次郎衆院議員など100名の議員が集まり、超党派の議員連盟を立ち上げたと聞いています。与野党のしがらみを越えた若手議員の皆さんに大いなるエールを送りたいと思います。


参院選挙制度改革

〇延長国会の最終盤に、参院の選挙制度改革法案が成立しました。この法案は、自民党提出のいわゆる「定数6増案」と言われている法案です。
 内容は、先ず1票の格差是正のために、議員1人当たりの人口が最も多い埼玉選挙区の定数を2増し、格差を3倍未満にします。更に比例区の定数を4増し、各党が事前に決めた順位に従って当選する「拘束名簿式」を一部導入して「特定枠」を創設します。これは、隣接県を1つの選挙区にした「合区」対象県の候補者に対処するための措置です。

〇この「定数6増法案」は、@地方議会が定数を削減する中で国会だけが何故定数を増員するのか、A国民に消費増税をお願いしながら、国会自身が身を切る改革に鈍感すぎる、B国会終盤に突然法案を出し、参院議長が十分な与野党の調整もせず、問答無用とばかり裁決を急ぐやり方は「自民の党利を優先」したものであり到底納得できない、などと厳しく批判をされています。
 私自身、党員・支持者の皆様からよく説明を求められます。なかなか複雑な内容ですので、一度、整理をしながら考えてみたいと思います。

〇結論から申し上げれば、埼玉選挙区の2増と比例代表に「特定枠」を設けることは、次に述べる理由によって理解できますが、比例区を4増する案は、少し大局的な観点からの説明を要します。

 @ 埼玉選挙区を2増した理由・・「合区」を増やさず、1票の格差が再び以前のように大きくならないように、投票価値が最も軽くなっている埼玉選挙区の定数を2増加する事によって、選挙区間の最大格差を3倍未満の2.985倍に是正する事にしたものです。

 A 比例区に優先的に当選する「特定枠」を設ける理由・・1票の格差是正のために、16年に実施された参院選挙から「合区」制度が導入されました。
   しかし「合区」は、人口の少ない県に限って2県を1選挙区とする制度であるため、合区対象の1つの県は代表を国会に送れないと言う事になります。一ツ橋大学大学院の中北浩爾教授は「人口が少ない近隣県の合区は、家族の人数が減ったから隣の家族と同居せよと言われるに等しい」と批判されています。私も同感です、少数者の意見を国会に反映させることも民主政治の大切な観点です。
   この「合区」の不都合を解消するには、次の2つ方法しかありません。
   1つは、合区制度を解消したうえで、各都道府県から少なくとも1人を選出できるように憲法を改正する方法です(これによって1票の格差問題が解消されます)。
   2つ目は、合区制度を維持したまま、選挙区で選出できない県の代表を比例区で優先的に当選できるように「特定枠」を設ける方法です(今回の自民党案です)。
   参院選挙は、来年の7月です。憲法改正手続きを必要とする第1の方法は、現状ではとても実現不可能です。そうだとすれば、合区制度を維持したままでその不都合を解決する手段としては、第2の方法しかありません。
   公明党が主張するように、1日も早く抜本解決を図るよう努力するとともに、それまでの暫定措置として第2の方法をとることはやむを得ない措置だと考えます。

〇次に、「特定枠」を設けて、定数を4増する事の是非について考えてみたいと思います。
 この点に関して、自民党の法案提出者は国会での審議において次のように答弁しています。
 「特定枠制度を設けるとしても比例定数を増やす必要はないのではないかと言うことでございますけれども、仮に比例定数を増やさずに今申したこと(特定枠を設けて優先的に当選させること)をやろうとしますと、その分、従来の比例代表選挙の当選枠が減るという事になります」「今回、従来の比例定数を減らさない、つまり定数の上積みでお願いしている」のです。
  つまり、従来A党は比例区で10人当選させてきた。今回「特定枠」で4人が優先的に当選すると、10人のうち6人しか当選できない事になる。残りの4人を当選させるためには「定数を4増やす」必要がある、と言うことです。
  この考え方については、冒頭で述べた通り「結局A党の党利優先ではないか」、と言うことでなかなか国民の理解を得にくいところです。

〇自民党の「定数6増法案」については、公明党として「反対」との選択肢もあったと思います。しかし公明党は、自民案に賛成をしました。その理由について、西田実仁参院幹事長は次のように説明されています。
 「公明党は、選挙制度の決定について、自民党単独ではなく、より幅広い合意に基づくべきであるとの考えから、付帯決議を提案し、自民党もこれを受け入れました。こうした自民党の対応なども踏まえ、公明党は自民党案に賛成する事に決めました」、
 付帯決議の内容は、「参院選挙制度改革について、投票価値の平等を求める憲法の趣旨を踏まえ、引き続き検討する事を示しました。また、定数増に伴い、国民の皆様の負担が増えないよう、本会議、委員会の会議録と言った印刷物のペーパレス化など参院全体の経費の節減を行うことも明記しています」
 更に、西田幹事長は「付帯決議で今後の改革の方向性に縛りをかけ、自民党がこれを受け入れた意義は大きい」と自民党案に賛成した理由を説明されています。

〇私は、公明党が自民党の参院選挙制度改革法案に賛成した理由は、「憲法違反の参院選挙を行ってはならない」と言う与党としての責任感だったと思います。
 参院選挙の1票の格差訴訟に関するこれまでの最高裁判所の判断の傾向性から、1票の格差の是正措置をしないで、現行のまま参院選挙を実施したなら「違憲・無効」判決の可能性が非常に高いと思います。実施した参院選挙が「憲法違反・無効」となり大混乱となるような事態は、与党の責任として断固、回避しなければなりません。しかも参院選挙は来年7月、選挙制度改正の周知期間は少なくとも半年は必要です。このように考えれば、通常国会が選挙制度改革法案を成立させる最後のチャンスです。
 冒頭に述べた通り自民党案には、国民の多くの批判があります。今回は、それを十分承知の上で、「違憲・無効」判決を回避するという高度の政治判断に立って賛成したものと理解をしています。それゆえにこそ、付帯決議で参院選挙制度の抜本解決を求め、参院の経費節減を求めているものと考えております。
 どうか、党員支持者の皆様のご理解と公明党に対する更なるご支援を心よりお願い申し上げます。

〇まだまだ猛暑が続きます。皆様の益々のご活躍とご健勝を心よりお祈り申し上げます。
以上

平成30年8月2日
公明党  漆原 良夫