★ 皆さん、こんにちは。今日5月3日は、71回目の憲法記念日です。この時期になると、毎年何処かで憲法改正の是非が議論されてきました。
しかし、去年から今年にかけて若干趣が違っています。それは、安倍総理自身が積極的に憲法改正の意向を示されたり、自民党が改正案を取りまとめるなど、憲法改正問題は、これまでにない具体的な政治課題となっています。
そこで今日は、自民党の憲法第9条の改正案が、総理の方針に沿ったものか否か、検討して見たいと思います。
★ 総理は、昨年の5月3日「憲法第9条1項(戦争放棄)と2項(戦力不保持)を残したまま、自衛隊の存在を憲法上明記する」という改正案を提示されました。
そして、その理由として、憲法学者などから今もなお「自衛隊は憲法違反だ」との指摘がなされている、このような状況は、命を懸けて国民のために頑張っている自衛隊の諸君に申し訳ない、そこで自衛隊を憲法上明記し違憲論争に終止符を打ちたい、と説明されました。
そしてその際総理は、現行憲法の平和主義や国民感情に配慮され、次のように述べられています。
@「自衛隊の存在を憲法上に明記したとしても、フルスペック(制約の無い形)の集団的自衛権の行使は認められない」と説明され、平和安全法制の範囲を超えた集団的自衛権の行使は認められないとの認識を示されました。
A さらに自衛権の行使については、憲法9条2項の戦力不保持の規定を残すことで、平和安全法制で定めた「武力行使の新3要件」の制限がかかる、と説明されています。
なお、平和安全法制で定められた「武力行使の新3要件」とは、次の通りです。
@、日本の存立が脅かされる明白な危険があること
A、武力行使以外に他に手段がないこと
B、必要最小限度の実力行使にとどめること
★ それでは、自民党案を見たいと思います。
自民党の改正案は、憲法第9条の1項(戦争放棄)と2項(戦力の不保持)をそのまま残したうえで、第9条の次に新たに「第9条の2」を設ける案です。
内容は、「前条の規定(戦力不保持)は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」となっています。
長い条文で分かりにくいかもしれませんが、要するに、憲法第9条2項の戦力不保持の規定に関わらず、国や国民を守るために「必要な自衛の措置」をとることが出来、「そのための実力組織として」「自衛隊を保持する」、という内容です。
★ 前に述べましたように、総理の自衛権に対する考え方は、大変抑制的・制約的です。問題は、総理の自衛権に対するこれらの方針が自民党改正案に反映されているかどうかです。
残念ながら応えは、NO。理由は次の通りです。
@ 一番の問題点は、憲法が容認する「自衛とは何か」が明確になっていないということです。
「自衛とは何か」が明確になっていない以上、「集団的自衛権の行使は認められない」とする総理の主張には、何らの根拠も無いことになります。
国際法上は、個別的自衛権も集団的自衛権も各国の「固有の権利」として認識されていることから考えれば、「必要な自衛の措置」という漠然とした条文では、むしろ集団的自衛権容認の道を開くことになると考えます。
A 新設の「第9条の2」の規定は、戦力不保持を定めた第9条2項の特別法だとする考えです。この説によれば、「必要な自衛の措置」については、戦力不保持の原則は適用にならない事になります。その結果、「自衛の措置」が一人歩きし、自衛隊の組織や権能が際限なく膨張し、終には第9条2項(戦力不保持)の条文が空文化してしまう危険性すらあります。
「9条2項の戦力不保持の規定を残したので、自衛権の行使には平和安全法制で定めた武力行使の新3要件の制限がかかる」という総理の説明は、全く根拠がなくなってしまいます。
★ 安倍総理の、自衛権に関する抑制的・制約的な考えを憲法に生かすにはどうしたらよいのでしょうか。
憲法で許容される「自衛とは何か」を憲法の明文規定によって明確にする事だと思います。具体的には、平和安全法制で定めた「武力行使の新3要件」を詳細に憲法に書き込むことが必要だと思います。
以上