平成29年3月25日
【テロなど組織犯罪をどう防ぐか
 
「テロ等準備罪」法案の意義/漆原 良夫 党中央幹事会会長に聞く

 

テロなど組織的な重大犯罪を防止するため、それを計画し準備した段階で処罰できるようにする「テロ等準備罪」の新設をめざす組織犯罪処罰法改正案(「テロ等準備罪」法案)が21日に閣議決定された。同法案の必要性、共謀罪との違い、恣意的な捜査から人権を守るための歯止めなどについて公明党中央幹事会会長の漆原良夫衆院議員に聞いた。

「防止条約」の加盟には国内法の整備が不可欠

―テロなど組織的な重大犯罪の防止に何をすべきか?

漆原良夫会長 日本は2019年にラグビーのワールドカップ、翌20年に東京オリンピック・パラリンピックを開催します。

これらの国際大会を断じてテロの標的にさせてはなりません。そのために必要なことは、国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の締約国になることです。

―締約国になるメリットは?

漆原 この条約は、テロを含む組織犯罪を未然に防止するための国際協力を可能にします。

締約国になると犯罪人引き渡しや捜査共助、情報交換も進みます。テロリストは国境を越えて活動します。締約国にならないと日本が国際協力の「穴」になってしまいます。

―締約国の数は?

漆原 すでに187カ国・地域に上ります。締約国になっていないのはG7(日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ)では日本だけ。国連加盟国の全体でも日本を含め11カ国にすぎません。

日本は00年にTOC条約に署名し、03年に社民党を除く各党の賛成で国会承認をしています。しかし、条約が加盟国に求めている国内法整備ができていないため、いまだに日本は締約国になれません。

―TOC条約は締約国にどのような法整備を求めているのか?

漆原 条約は、重大な犯罪(長期4年以上の懲役・禁錮刑の罪)を行うことの「合意」、または、組織的な犯罪集団の活動への「参加」の少なくとも一方を犯罪とするよう求めています。

しかし、日本の現行法には、条約が求める「重大な犯罪の合意罪」に当たる罪は一部の犯罪にしか規定がありません。また「参加罪」は存在しません。

どうしても新たな国内法整備が必要です。それが閣議決定された「テロ等準備罪」法案です。

共謀罪とは異なる法案。「内心の自由」守られる

対象犯罪の内訳(計277)―「テロ等準備罪」は過去3回、廃案になった共謀罪のことか?

漆原 共謀罪と「テロ等準備罪」は異なります。

共謀罪は組織的な重大犯罪の「合意」、すなわち心の中の共謀だけで処罰されます。もっとも共謀罪の対象は組織的な重大犯罪であり、一般市民は対象になりません。しかし、国民の間に“内心の合意だけで処罰される”との不安感が広がりました。

これに対し、「テロ等準備罪」の成立には内心の合意と組織的な重大犯罪の準備行為が必要です。

―「テロ等準備罪」が成立するための条件は?

漆原 「組織的犯罪集団」「計画」「準備行為」の三つの構成要件があります。構成要件とは犯罪となる行為の定型のことで、殺人罪なら「人を殺した」が構成要件です。

「テロ等準備罪」の場合、まず、犯罪の主体が「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」に限定されました。共謀罪の時は単なる「団体」でした。「組織的犯罪集団」とは存立の目的が重大犯罪を実行するための団体です。テロ組織、暴力団、薬物密売組織、振り込め詐欺集団などが典型で、民間団体や労働組合は対象ではありません。

次に、「テロ等準備罪」の対象となる犯罪【表参照】の遂行を2人以上で具体的・現実的に「計画」することが必要です。「居酒屋で上司を殴ってやろうと言っただけで犯罪になる」などの批判は的外れです。

最後に、計画の単なる「合意」だけでなく、それに加え、計画した犯罪の「準備行為」が行われることを構成要件にしました。

―共謀罪の時の懸念は解消されたか?

漆原 共謀罪の時は内心の合意だけで犯罪が成立するため、「内心の自由が侵害される」「監視社会になる」と言われました。しかし、「テロ等準備罪」が成立するには、「計画」をしただけでなく「計画に基づき資金または物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われた」ことが必要です。

このように、「組織的犯罪集団」「計画」「準備行為」を構成要件にすることで、共謀罪への懸念は解消されました。特に、犯罪主体を「組織的犯罪集団」に限定したため、およそ「組織的犯罪集団」が行う犯罪とは無関係な犯罪を対象犯罪から外すことが可能となりました。その結果、対象犯罪は676から277にまで減りました。

組織的犯罪集団が対象。捜査権の乱用に歯止め

―「テロ等準備罪」では犯罪の起きる前から捜査ができる。捜査権乱用の恐れはないか?

漆原 この点は公明党が最も懸念したところです。テロ等の組織犯罪対策と人権保障のバランスをどう取るかで苦しみました。

最も重視したことは、先に説明した「テロ等準備罪」の構成要件の厳格化です。それによって、民間団体や労組が捜査対象にならないようにしました。また、「準備行為」という客観的、外形的行為を要件とすることで、内心の合意だけで処罰されないようにしました。

このように構成要件を厳格にしたことで、警察の捜査にも歯止めがかかります。警察が逮捕や家宅捜査などの強制捜査をするには、裁判所の令状が必要ですが、犯罪の嫌疑がなければ逮捕や捜査の令状は交付されません。

ところが「テロ等準備罪」の嫌疑が生じるためには、「組織的犯罪集団」が対象犯罪を「計画」し、「準備行為」をすることが必要です。単に、「あの組織は怪しい」だけで強制捜査はできません。

―民進党は、TOC条約の締結には共謀罪も「テロ等準備罪」も不要と主張している。

漆原 民進党は民主党時代、09年の衆院選前に発表した政策で共謀罪を導入することなく条約に入ると公約し政権に就きました。

ところが3年3カ月の政権期間中、条約に加盟できませんでした。実現できなかったことを「できる」と言い張る民進党は無責任です。

公約したにもかかわらず、実現できなかった理由を国民に説明すべきです。「テロ等準備罪」に反対するのであれば、テロから国民を守るにはどうすべきか対案を出すべきです。

現在、187カ国・地域がTOC条約を締結し、テロなど組織犯罪と戦っています。どの国も条約が求める「参加罪」か「合意罪」の法律をもっていますが、それによって人権侵害国家などと非難されていません。



(平成29年3月25日付け公明新聞より転載)