24日の衆院本会議で、容疑者の取り調べを録音・録画(可視化)する改正刑事訴訟法などが成立した。長年にわたって可視化の実現に取り組んできた党法務部会顧問の漆原良夫中央幹事会会長に法改正の意義を聞いた。
――改正刑訴法の意義は。
漆原 この法律の最大の柱は、捜査官による自白の強要が引き起こす冤罪(無実の罪)を防止するための「取り調べの録音・録画(可視化)」の導入です。公明党は可視化を2005年の衆院選からマニフェストに盛り込み、一貫して訴えてきました。法相から初めて将来的な可視化の導入表明を引き出した06年の衆院法務委員会での質問を含め、私も国会で何回もこの問題を取り上げてきました。
可視化によって捜査官による自白の強要の有無は一目瞭然となります。冤罪を生まない新しい刑事司法の構築に向けた重要な一歩になると思います。
また、法廷で自白の強要を証明するには、捜査官を証人として尋問するなど大変な時間を要するため、裁判員として裁判に臨む国民の負担軽減の観点からも可視化は重要です。
――可視化される事件の対象が狭いとの批判がある。
漆原 今回、可視化が義務付けられる事件は、国民の関心が高い裁判員裁判の対象事件と検察の独自捜査事件です。どちらも重大事件ですが、容疑者が逮捕された全事件から見ると3%程度にとどまります。しかし、可視化は警察の取り調べも含めて全過程の録音・録画となっており、取り調べのあり方の変革を迫る確かな前進になっています。
可視化への機運が決定的に高まったのが、村木厚子前厚生労働事務次官が、局長時代に逮捕・起訴され、後に無罪が確定した「郵便不正事件」です。この事件への反省から11年、ついに政府の法制審議会で取り調べの可視化を含む刑事司法改革の議論がスタートし、今回の改正へとつながりました。
――今回の法改正で司法取引が導入されるとともに、通信傍受の対象事件も拡大する。
漆原 司法取引は、他人の犯罪を証言すれば不起訴や軽い求刑にすることを、検察官が容疑者や被告との間で合意できる制度です。対象は今まで立証が難しかった汚職、詐欺、横領事件や、独禁法違反などの経済事件、薬物・銃器犯罪などに限られ、取引の協議には弁護人が常に関与します。すでに司法取引が定着している海外諸国では組織犯罪事件の全容を解明するために効果があると実証されています。なお、嘘の供述の場合は5年以下の懲役が科されます。
一方、これまで薬物・銃器犯罪など4類型の捜査に限られていた通信傍受法は、組織犯罪が疑われる窃盗や詐欺、児童ポルノ事件などが増加する中で、これらに限定して対象を拡大しました。傍受に際して通信事業者の立ち会いを不要としたのは迅速な対応を可能にするためです。
ただし、通信傍受の乱用によるプライバシーへの過度な侵害を避けるべきことは当然です。
改正刑訴法は、自民、公明の与党のほか、共産、社民を除く野党によって成立しました。日本弁護士連合会も賛成しています。