平成24年5月31日
裁判員制度の課題
 
施行から3年が経過/裁判員制度の課題/審理時間などが重い負担に/守秘義務、対象事件の見直しを

 
 施行から3年が経過した「裁判員制度」の課題と、来年度から子宮頸がんなど「3ワクチン」が無料化される方針について解説する。

 裁判員制度が開始されて3年が経過した。刑事裁判に国民の感覚を反映する目的で導入されたもので、有権者の中から毎年無作為に選ばれた国民が、裁判員として裁判に参加するものだ。
 同制度は、プロの「裁判官」3人と国民から選ばれた「裁判員」6人の計9人が一緒に法廷に臨み、被告人に対する有罪・無罪の判断とともに、有罪の場合は刑の重さも決める。
 対象は殺人罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪、覚せい剤取締法違反などの重大事件だ。裁判員の安全のため、テロや暴力団関係の事件は対象外になる。
 日本ではこれまでに2万人を超える裁判員が裁判に参加した。昨年実施した最高裁の裁判員アンケートでは、「参加してよかった」など肯定的な回答が95%を超え、その理由として社会との関わりや責任を実感したといった意見も挙がった。
 日本以外の多くの国でも、刑事裁判に国民が直接関わる制度が設けられており、国民の司法への理解を深める上で大きな役割を果たしている。
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 こうしたアンケート結果から同制度はおおむね安定して運用されているとの指摘は多いが、裁判員経験者や市民団体などから改善を求める意見も出ている。
 同制度を定めた裁判員法は施行から3年経過した後に、制度見直しの必要があるか検討するよう明記している。これまで裁判員の負担軽減に加え、対象事件の範囲や守秘義務といった課題が指摘されており、見直し論議が本格化する見込みだ。
 裁判員の負担の中で特に重いのは死刑事件だ。裁判員経験者には判決後、時間がたってから悩むようになったという声が少なくない。ケアの体制も検討すべきだ。
 また、審理の時間が年々増え、裁判員が裁判所に通った日数も長くなっている点も問題だ【図参照】。
 例えば、長期審理となった、さいたま地裁の首都圏連続不審死事件では、裁判員候補者の7割が辞退したことは記憶に新しい。長期審理に対する裁判員の負担が大きいことは明白である。仕事を持っている市民の参加を求めるなら審理を短くすることは不可欠だ。
 裁判員経験者に生涯課される守秘義務の緩和も懸案の一つだ。関係者のプライバシーを守るために守秘義務が必要なことは言うまでもないが、守秘義務の範囲が明確になっていないため、何も話さない人が多いといわれる。そのため、貴重な経験が次の裁判員候補者に伝わらないことが懸念される。日弁連は裁判員法の罰則規定を見直すよう提言している。
 対象事件の範囲見直しは、性犯罪と薬物密輸が主な焦点になっている。このうち、性犯罪被害者の支援団体は、被害者のプライバシー保護や出廷への負担から、対象外とするか被害者に選択権を与えるよう要望している。
 これらの課題については今後、法務省の有識者検討会で議論され、法改正の是非が検討される。
 『漆原良夫党国会対策委員長(弁護士)に聞く』
 『国民目線の司法を実現/公明がリード 裁判員の献身的な行動に感謝』
 ――制度開始から3年が経過したが、どう評価するか。
 
漆原 この制度の意義は、裁判の中に国民の視点を入れることだ。
 当初は国民の皆さまに死刑など非常に重い事件を取り扱ってもらうため、精神的、経済的、時間的な負担が多く、この制度が日本に根付くのだろうかと心配した。しかし、裁判員の皆さまは制度の趣旨をよく理解し、献身的に参加してくれた。
 これまでは三権分立の中で、立法や行政に比べ司法に対する国民参加が足りなかったと思う。証人という形はあったが、ジャッジ(審判)はなかった。この制度は民主主義にとっても非常に大きな意味がある。
 ――課題については。
 漆原 まず死刑制度の問題だ。裁判員は死刑制度があるから、苦しむ中で判決を書かざるを得ない。一方、民主政権の法務大臣は死刑制度の見直しに言及している。ならば、国として責任を持って死刑制度を存続するのか廃止するのか結論を出すべきだ。そうでないと裁判員に申し訳ない。
 また、重大事件で被告人が否認した場合、審理は長時間になる傾向がある。もう少し裁判員の拘束時間を短くする方法を検討すべきだ。
 裁判員の守秘義務も負担が重い。裁判の中身は自分の奥さんにも話してはいけないことになっている。もう少し軽くできないか検討する必要があると思う。
 ――この制度の実現に果たした公明党の役割は。
 漆原 当時は自公政権時代だったが、公明党は国民の目線に立った司法を実現したいと考え、裁判員の参加しやすい環境づくりと法的安定性を保つにはどうしたらいいか自民党と議論を重ね、現制度の実現を主導した。その結果、裁判員経験者のうち、9割以上が制度を肯定的に評価している。ありがたいことだと思う。

(平成24年5月30日付け公明新聞より転載)