平成23年7月1日
司法制度改革
 
解説ワイド/成果と課題/司法制度改革/スタートから10年/裁判員と法テラスが法を身近に/「迅速で公正な裁判」へ大きく前進

 
 終戦後の司法民主化に匹敵する抜本改革となった司法制度改革がスタートしてから今月で10年になる。この改革のグランドデザインを描いた政府の司法制度改革審議会「意見書」は2001年6月12日に公表され、そこで示された構想の多くが実現された。中でも、法律トラブルの身近な相談窓口である法テラス(06年10月業務開始)、刑事裁判に一般国民を参加させる裁判員裁判(09年5月施行)、法曹(弁護士、裁判官、検察官)養成のための法科大学院(04年開校)は、文字通り司法の姿を一変させた。これらの成果をまとめるとともに、公明党法務部会長として当時の改革論議をリードしてきた漆原良夫国会対策委員長(衆院議員)に今後の課題を聞いた。
 『広げたい法曹の活躍の場/改革当時の党法務部会長として国民本位の制度構築に努力した/
漆原良夫国会対策委員長』
 国会論争を通して法律を制定する「立法」や、法律に基づいて現実の政策課題に立ち向かう「行政」に比べ、裁判による紛争解決を担う「司法」は地味な分野である。
 しかし、グローバル化が進む中、国際取引では「法」に基づく紛争処理が重視され、事実、新興アジア諸国は司法の現代化に余念がない。また、日本でも国民の高い権利意識を反映し、社会問題について司法判断を求める傾向が顕著だ。「司法」は今や国の重要インフラ(社会基盤)となっている。こうした時代背景の中で行われた司法制度改革は「強い司法」構築に貢献したと評価したい。
 特に、誰もが気軽に使える法律相談窓口「法テラス」や、一般国民が刑事裁判に参加する「裁判員制度」は、「法」を国民の身近な存在にする役割を確実に果たしている。
 また、法曹人口を拡大し、新たな法学教育による法曹養成を行うための法科大学院が創設されたことも重要である。確かに、卒業生の司法試験合格率の低下や、弁護士資格を得ても十分な仕事がないなどの課題も抱えている。
 しかし、「公正・公平な問題解決」の能力に秀でた法曹は、裁判だけでなく、ビジネス、行政、教育、国際機関など多様な分野への進出が期待される。政府は「法曹の活躍の場」拡大に全力を尽くすべきである。
 『法テラス』
 『大震災後の生活再建支援に万全期す』
 「2割司法」という言葉が注目を集めたことがあった。裁判や調停など司法の場で解決されるべき法律紛争は全体の2割ほど。残りは、泣き寝入りや有力者によるあっせん、裏社会での処理に任されていたという意味である。貧弱な司法の告発であった。
 不透明な紛争処理は結局、社会的強者を有利にする。これでは社会正義は実現されず、自由経済の基盤である公正・公平な競争も阻害され、社会の活力を削いでしまう。
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 しかし、法的トラブルで頼りになる弁護士は大都市圏に集中し、地方は「弁護士過疎」の状態。費用もかかるため弁護士への相談には「戸惑いがある」「敷居が高い」と感じる人が多い。審議会意見書は弁護士人口を拡大する構想を提起したが、人材育成には時間が必要。そこで誰もが利用できる法律相談窓口を整備することになった。それが法テラスである。
 全国どこからでも「サポートダイヤル」(平日は9〜21時、土曜は9〜17時)に電話をすれば、必要なアドバイスが受けられる【別掲『法テラスの利用法』を参照】。また、全国の県庁所在地(北海道は札幌市、函館市、旭川市、釧路市)にある50カ所の地方事務所(平日9〜17時)でも相談を受け付けている。
 電話相談の利用件数は07年度の約22万件が09年度は約40万件に増加するなど、トラブル解決の「最初の一歩」として、法テラスは身近な司法を支えている。
 現在、法テラスが直面している課題は、東日本大震災への対応である。二重ローンや保険金支払い、相続問題など、法律問題が被災者の生活再建を阻んでいる。復旧・復興が進む中、相談件数の激増が予想される。法テラスにとって大震災への対応は初めて。真価発揮の時である。
 『裁判員』
 『市民が「法と証拠」に従い犯罪を裁く』
 犯罪を裁く刑事裁判(第1審)は裁判員制度の導入によって激変した。
 審理内容が実に分かりやすい。証拠品や犯罪現場の様子は法廷の大型画面に映され、被告人の行為が、なぜ犯罪になるかを検察官が丁寧に説明する。一方の弁護側も、検察側の主張とは相いれない証拠を示しながら反論する。
 法廷正面には裁判官3人を中心にその左右に各3人、計6人の裁判員が並び、検察、弁護側ともに、法律の素人である裁判員の表情をうかがいながら弁論を進める。
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 以前の法廷は検察、弁護側ともに法律用語のオンパレード。検察が用意した証拠も事務官が裁判官に渡すだけで傍聴席からは何も分からない。憲法は権力による恣意的な裁判を防ぐため、裁判の公開を定めているが、難解な審理ではその意味がない。
 欧米では歴史的に刑事裁判を国家権力を体現した裁判官に任せることに警戒心が強く、一般国民が裁判に参加する陪審制や参審制が古くから根付いている。
 日本の裁判員制度は参審制が参考にされ、有権者名簿からくじで選ばれた6人の裁判員が3人の裁判官と一緒に法廷で審理をし、その後、良識に基づき、「法と証拠」に従って評議をする。その結果、有罪と判断すれば刑罰の重さも決める【別掲『裁判員裁判の流れ』参照】。
 裁判員のスタート前後は、国民の中に「人を裁く」ことに対する不安感で参加に消極的な人が多かった。しかし、最高裁の裁判員経験者アンケート(3月公表)によると「非常によい経験と感じた」(55・5%)、「よい経験と感じた」(39・7%)と95・2%が積極的に評価した。
 今後、法に対する国民の意識変化が注目される。
 ●司法制度改革とは     
 【透明なルールの下で自由競争を促進】
 改革の主な目的は「事前規制型社会」から「事後チェック型社会」への移行。
 事前規制型とは、国民の社会・経済活動に伴うトラブルの未然防止のため、行政が事前規制を行って本来自由な活動に枠をはめてしまうことだ。1990年代以降、過度の規制が経済の活力を削ぐとの批判が高まり、行政は透明で明確なルールの策定と監視に役割を限定し、ルール違反などでトラブルが発生した場合は、司法の場で解決させる「事後チェック型社会」への移行が求められてきた。
 このため司法に対し、トラブルの公正・迅速な処理能力の向上が要請され、利用しやすい裁判制度の確立、国民が身近に法律相談ができるサービス体制の整備、「国民の社会生活上の医師」として働ける十分な数の弁護士の養成などがテーマとなった。
 さらに、国民の法意識、権利意識の向上を図るため、司法への参加制度として、市民の良識を刑事裁判に反映させる裁判員制度も導入された。
 ●改革の主な歩み    
 【1999年7月】司法制度改革審議会を内閣に設置。改革論議が始まる。
 【2001年6月】審議会が意見書提出。意見書実現の対処方針を閣議決定。改革スタート。
 【同年12月】司法制度改革推進法(11月成立)に基づく司法制度改革推進本部を内閣に設置。設置期限は3年間。
 【02年3月】実現すべき改革を明記した司法制度改革推進計画の閣議決定。
 【同年11月】法科大学院の創立に関係する諸法律が成立。開校は04年4月。現在74校。
 【04年5月】裁判員裁判法が成立。スタートは09年5月。初の裁判員裁判は同年8月に東京地裁で開廷。
 法テラスを整備するための総合法律支援法が成立。業務開始は06年10月。
 【同年11月】推進本部の設置期限が終了。

(平成23年6月29日付け公明新聞より転載)