平成23年2月18日
施行10年。定着している通信傍受法
 
解説ワイド/施行10年。定着している通信傍受法/公明党の修正で人権保障と犯罪抑止が両立。盗聴の懸念を解消

 
 犯罪捜査として通信傍受を認めた通信傍受法の施行から10年。政府が今月4日に提出した「2010年における通信傍受に関する国会への年次報告」によると、同法によって薬物犯罪の捜査に確かな成果が上がり、同時に、「通信の秘密」侵害による人権問題も起きることなく適正に運用されている事実が明らかになった。通信傍受法案の国会審議(1999年)で修正案を出し、人権侵害防止へ「歯止め」をかけたのは公明党だった。同法の成果を紹介し、当時、公明党法務部会長を務めた漆原良夫国会対策委員長に話を聞いた。
    ◇ 
 数年来、著名人の覚せい剤使用や、大学生による大麻栽培・使用が報道されるなど、薬物犯罪は依然として深刻な社会問題となっている。
 薬物犯罪は、薬物を営利目的で扱う「供給側の犯罪行為」と、薬物の単純所持や自己使用といった「末端の犯罪行為」とでは、犯罪の性格が異なる。供給側の主体は暴力団など犯罪組織であり、捜査は困難を極める。
 犯罪組織は取り締まりの甘い国を拠点にするため、94年のナポリ・サミット(主要国首脳会議)以降、組織犯罪対策の強化は国際的課題となった。これを受け日本は、通信傍受法を成立(99年8月。施行は翌年8月)させ、警察など捜査機関に電話等の傍受を認めた。通信傍受は、組織上層部を狙う「突き上げ捜査」に有効とされる。
 今回の国会報告によると、施行10年間で57事件の通信傍受が行われ247人が逮捕された。事件の内訳は麻薬売買・密輸事件が50件、拳銃所持等が4件、組織的殺人が3件。法務省は「捜査手法として確実に定着しつつあり、効果を上げている」とし、江田法相も「今後とも有効適切に活用する方針」と述べた。
 当初は、「通信傍受で盗聴国家になる」との批判もあった。公明党は、修正案をつくり国民の懸念払拭に努めたが、民主党は「通信傍受は必要」としながらも政局絡みで行動。参院本会議では他の野党と牛歩戦術までして反対した【写真=99年8月12日】。
 『漆原良夫国対委員長に聞く/対象犯罪を薬物などの4分野に限定』
 通信傍受法は、犯罪捜査のためとはいえ、「通信の秘密は、これを侵してはならない」(憲法第21条)との規定に触れる捜査手法である。その一方で、薬物犯罪など組織犯罪の魔手から国民を守ることも国家の責任である。そこで公明党は、犯罪抑止と人権保障の両立をめざすべきだと判断した。
 ところが政府の通信傍受法案は「これを機会にどんな事件にも使おう」と言わんばかりの内容で、通信傍受を認める対象犯罪も広く、例外のはずの通信傍受が一般化されてしまうとの不安を抱かざるを得ない内容だった。そのため、公明党は政府案に反対を表明。その上で、「通信の秘密」侵害に「歯止め」をかけるための修正案をまとめ政府に迫った。
 主な修正点は、対象犯罪を(1)薬物犯罪(2)銃器犯罪(3)組織的な殺人(4)集団密航――の4分野に限定し、傍受の間は常時、通信事業者など第三者の立会人をつけることを義務付けたことである。
 この修正は傍受の乱用を抑え、最初の2年間は傍受0件、最高でも2008年の11件であった。それでも薬物犯罪などの阻止に傍受は力を発揮している。

(平成23年2月16日付け公明新聞より転載)