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平成20年1月4日 |
【「合意形成型」政治をリードする公明党】 |
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「合意形成型」政治をリードする公明党/慶應義塾大学法学部教授 小林良彰氏/国会対策委員長 漆原良夫氏/参議院幹事長 木庭健太郎氏 |
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『(政権与党内は)頑固で(与野党交渉は)柔軟に政策協議』
昨年の参院選の結果、衆参両院は与野党がそれぞれ過半数を占める「ねじれ現象」が生じた。両院が法案処理で異なる議決をすると国会運営が滞り、国の内外でさまざまな影響が出てくる。そこで、与野党が合意を形成していくために必要な視点や国会運営の在り方について、小林良彰慶應義塾大学教授と公明党の漆原良夫国会対策委員長、木庭健太郎参議院幹事長の3者に語り合ってもらった。 『「ねじれ国会」では、第三党の役割が重要。海外で立証ずみ/小林』
『「清潔さ」「弱者擁護」「平和」「安全」の政治姿勢貫く“橋渡し役”に/漆原』 『二院制の長所を生かして開かれた議論の場つくる好機/木場』 漆原 昨年の参院選後の「ねじれ国会」でどれだけ法律が成立するか、国会運営の責任者として大変不安でした。しかし、例の「大連立構想」のドタバタ劇以降、与野党の合意によって生活関連の法案がある程度成立するようになってきました。 その第一号が改正被災者生活再建支援法です。党派を超えて真剣に議論し、常任委員会の委員長提案という形で成案を得ました。とてもいい法案の作り方でした。 「政治とカネ」の問題も決着しました。各党の国会対策委員長が集まって作業部会をつくり、十数回議論を重ねて合意に至りました。 木庭 しかし、テロ対策のための補給支援特別措置法案は難航しました。第一党と第二党が対立したまま「政治が動かない」という事態は避けなければならない。こうした重要法案で与野党の合意形成が生まれていく状況をつくっていかなければいけない。 与党ではあるが第三党である公明党には、政策実現のための与野党の“橋渡し役”という新たな役割が始まっているのかと強く実感しています。 『独の両院協議会は半年議論』 小林 国会は本来、国民に見えるところで議論するところなので、「ねじれ国会」だから決まらないというのは、そもそもおかしな話です。日本では、「与党だけが物事を決め、野党は徹底抗戦」という政治文化が根付き、衆参で多数派が異なる状況になっても、その習慣が抜けないようです。 ドイツは東西統一以降、今の大連立政権を除けば、連邦議会と連邦参議院の二院の「ねじれ」は常態化しています。しかし、国籍法や移民法など、重要な法律がたくさん成立しています。 両院協議会で作業部会をつくり、徐々に意見をすり合わせていく。この役割を担ったのが第三党のFDP(ドイツ自由民主党)で国籍法でも移民法でも折衷案を出したのはFDPでした。二大政党はメンツもあるが「FDPの話なら検討しようか」となる。だから、ねじれてもまとまるのです。 漆原 私も「ねじれ国会」によって、日本でも「新しい政治」が始まる可能性がある、とも感じています。与党も野党も互いを意識してよりよい法案を提出しようとする。それを国民が評価する政治状況になってきました。これがうまく機能すれば、非常にいい結果が生まれる。 必要なのは政党、政治家の意識改革です。 木庭 合意を得るための新しい仕組みも構築しなければなりません。日本の国会にも両院協議会がありますが、法案審議の場である国会の常任委員会の中に小委員会を設けて議論する方法もある。開かれた形で、どう議論の場をつくるかが、非常に大事です。第三党である公明党にも重責が課せられています。 小林 日本の二院制は、世界に誇る民主主義の制度です。大統領制ではない国で、もし一院制にしたら立法府の多数が行政府をつくるので、権力はだれも止められません。 私も、日本は今、本来の二院制が理想的な方向へ転換する時期にあると思います。 木庭 確かに、世界で、日本ほど権限がほぼ変わらない二院制を持っている国はないわけで、それは、私たち参院議員の誇りでもあります。二院制の長所を生かしていかないといけない。 『第三党は高い政治理念必要』 小林 世界の中では、「ねじれ国会」はいろいろな国で見られますが、多くの国で国会がきちんと機能しています。そこでは第三党の役割が注目されますが、合意形成をリードしていくためには、他党以上に高い理念と政治姿勢が求められます。 具体的には、清潔な政治、弱者救済、平和――の三つです。ドイツのFDPも一つのポリシーがあり、そこは絶対に譲らない。そうした合意形成のメカニズムが、日本でも芽生えると私は楽観的に思っています。 漆原 そのためにも、これまで必ずしも有効に機能してこなかった両院協議会の活用を与野党で真剣に考えるべきですね。 小林 ドイツで移民法を成立させた時は両院協議会を開いても、すぐに採決せずに、およそ月1回のペースで作業部会を開いて少しずつ意見をすり合わせ、半年ぐらいで採決をした。大部分は、そこに至るまでに合意に達しています。 半年も論議するのは、国民のレスポンス(反応)を見るためです。それぐらい時間をかければ、国民世論が正当な評価を下せるからです。 漆原 どの政治家が何を言い、その結果どうなったか、議論の内容をオープンにする。そうすれば、いやが上にも国会に緊張感が生まれ、国民の望む方向に議論が進むと期待できる。 小林 本当の意味での議院内閣制ですね。とかく有権者は選挙の時だけ大事にされ、あとは“蚊帳の外”に置かれがちですが、法案審議の過程で常に民意を汲み取っていくプロセス(手順)作りの機会が今、ようやく巡ってきたのだと思います。 『議会制民主主義成熟の機会』 木庭 そうした意味では、日本に議会制民主主義を定着させ、成熟させていくための大きなチャンスが訪れたと受け止め、あるべき立法過程をつくっていきたい。 漆原 今こそ、公明党の出番と自負しています。「クリーン(清潔)さ」「平和」「社会的弱者を守る」という点は絶対に譲らないで、国民が納得する法律や制度を、どんどんつくっていきます。 小林 あと一つ、「安心・安全」も加えてください。仮に、第一党と第二党を敵に回そうとも、国民の支持がある限りは、その四つは絶対に譲らないでほしいですね。それぐらいのポリシー(方針)があって初めて、政党としての存在感が発揮できます。 木庭 同感です。戦後政治は、官僚が法律を作成し、国会で多数派の自民党と協力して成立させてきた。しかし、「ねじれ国会」では数の論理は通用しませんから、官僚の思い通りにはなりません。逆に、国民の立場、現場の視点からの意見が法律に反映されやすくなる状況にあります。この“好機”を生かしていかなければ、国会は有権者からお叱りを受けます。 『政策決定に流動性出てくる』 小林 ねじれ状況になって、どの政党も国民を軽視できなくなってきた。木庭さんの指摘の通り、今まで決まらなかったことが決まる可能性が生まれてきた、言い換えれば政策に流動性が出てきた。 今後は、どの政党が国民とインタラクション(相互のやりとり)できるかが勝負です。次の選挙は、既に始まっていて、国民はそこを見ていると思います。 漆原 自民党と連立して9年目、公明党の存在意義は、ますます大きくなっています。公明党の持ち味を発揮するために、連立のパートナーに対しては、頑固でありたい。一方、与野党折衝では、自民・民主両党のいい考えを結びつけていく“橋渡し役”や“接着剤”になっていきたい。 小林 その通りです。公明党に必要なのは、まさに「頑固さ」と「柔軟さ」です。 政権与党内では「頑固さ」。「政治とカネ」の問題で、1円の領収書まで公開するように決まったことは、まさに“相当な頑固さだったな” (笑い)と評価されます。そして、これは与党にいないとできない。 あと、「柔軟さ」です。 野党との折衝では譲れないところは別にして、合意案づくりで柔軟な政策形成に力を出してほしい。第三党が柔軟性を発揮すれば、法案がまとまりやすくなり、国民にとって大きなプラスになります。 漆原・木庭 ありがとうございます。新しい年も、国民の皆さまの期待に応えられるよう全力で頑張ります。 『小委員会』 衆議院規則43条の「委員会は、小委員会を設けることができる」という規定に基づき、委員会で必要がある場合に、その決議により、(1)議案および請願の審査(2)特定事項の調査(3)法律案、修正案等の起草――などのために設けられる委員会の下部機関。 『両院協議会』 衆参両院でそれぞれ異なる議決をした場合に、国会としての意見の一致を図るために設けられる協議会。各議院で選挙されたそれぞれ10人の委員で組織され、出席協議委員の3分の2以上の多数で協議案が議決されたとき成案となる。 『衆院の優越』 憲法は予算と条約、首相指名で衆参両院が異なった議決をした場合、衆院の議決を国会の議決とすると定めている。衆院可決後、参院が受け取った予算案を30日以内に議決しなければ予算は成立する(自然成立)。 『国政調査権』 憲法62条に基づき、衆院と参院はそれぞれ独立に、国政調査と証人喚問、資料要求をすることができる。証人喚問の議決は1955年以降、数の力による横暴を防ぐ観点から、全会一致が長く原則となっている。 こばやし・よしあき 1954年、東京生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了、法学博士。専門は政治学・政治過程論。日本政治学会理事長。著書多数。
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(平成20年1月1日付け公明新聞より転載)
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