難民政策の見直しに関する政策提言

2002.07.02

公明党政務調査

外交安保・法務合同部


 中国・瀋陽の日本総領事館で発生した亡命者連行事件を契機に、現在日本の難民・亡命者政策の見直しの機運が高まっている。日本は、これまで約1万人のインドシナ難民を受け入れているが、いわゆる難民条約に基づいて1982年より受け入れを開始した他民族の難民に関しては20年間で合計291人しか受け入れておらず、これは先進諸国の中でも極めて少ない数となっている。
 しかし、難民の受け入れ数に関しては、日本で難民申請を行なう者の母数が少ない点や、在外公館等自国の領域外で難民・亡命者庇護を行なう慣例が国際法上確立していない問題などがあり、受け入れ数を増加するだけでは、人道的な意味で問題をかえって悪化させる可能性がある。在外公館における難民・亡命者への人道的対応に関するルール作りは必要だが、むしろ現行の難民認定制度や難民申請者および認定難民に対する支援のあり方に関し、「質の改善」をはかることが先決と思われる。この観点から、以下提言する。



(1)在外公館における政治亡命等への対応
 日本の在外公館に難民申請および政治亡命を希望する者(庇護申請者)が逃げ込んで来た場合に、人道的立場から一時的な保護を与える体制を整備する。まず在外公館における緊急事態対処マニュアルを見直すとともに、庇護申請者対応について在外公館職員等に周知徹底を図り、定期訓練も実施すること。


(2)難民、亡命者対策等に関する調整組織の設置
 難民および亡命者に関わる政府の諸政策を調整する組織を設置し、その事務局を内閣官房に置き、総合的な難民対策を実施すること。(既存の「インドシナ難民対策連絡調整会議」(事務局:内閣官房)の改組・転用も検討)
 これにより、2001年3月国連・人種差別撤廃委員会から改善勧告が出されているインドシナ難民と条約難民の待遇格差の解消を図ること。


(3)アジア福祉教育財団(財)・難民事業本部の事業拡大
 現在インドシナ難民とその家族のみを原則対象としている(財)アジア福祉教育財団・難民事業本部(所管官庁:外務省)による定住支援事業対象者を条約難民とその家族まで拡大することを目標に、必要な制度の見直しを早急に取りまとめ、実施すること。


(4)難民認定体制の拡充
 難民認定に関わる難民調査官および通訳の専門性向上、専従人員の増強等を図り、より公正かつ信頼性の高い難民認定が実施できる施策を講ずること。
 また、難民認定部門については、第3者機関として新設することを検討し、不認定者の不服申し立て案件審査に関しては、法務省の通常の入管業務と分離することについて検討すること。


(5)難民申請期限の延長
 難民申請期限(現行日本上陸の日より60日以内)の延長の検討と、期限超過のみを理由とする不認定の原則禁止を明確化するとともに、申請者本人の難民性立証の負担軽減を図ること。


(6)難民認定申請中の者に対する処遇の改善
 難民認定申請中の者(2次・3次申請者も含む)に対し、一定の条件のもと在留特別許可の基準を緩和し、認定結果が確定するまでの間、生活の安定を確保すること。ただし、不法入国者・不法残留者による難民申請制度の濫用防止にも努めること。


(7)難民不認定の判定理由の情報開示
 難民不認定の判定理由の具体的内容について、申請者本人への情報開示をできるだけ行い、認定業務の透明性・信頼性の向上を図るとともに、不要な不服申し立て・再申請の防止を図ること。


(8)「難民情報センタ−」(仮称)の設置
 難民申請者および認定された難民とその家族に対し、難民申請手続き、援助スキーム、日本語教育の支援や医療・住居・就労等生活全般にわたる情報を提供する体制を整備すること。
 具体的には、「難民情報センタ−」(仮称)を設置し、地方自治体や難民支援に従事するNPO・民間ボランティア団体や在日外国人コミュニティ組織と連携しつつ、難民申請者・条約難民に対する必要な情報提供を行うこと。
 また、難民に対する情報提供の一環として「難民生活ガイド」(仮称)等のハンドブックを作成し、難民認定の手続きの際に提供すること。


(9)就労斡旋業務の改善
 難民申請者および認定された難民とその家族の生活安定のため、これらの人々に対する就労斡旋業務を改善する。
 具体的には、外国人にも十分対応可能なハローワークをめざし、職員(就労斡旋業務従事者)に対する難民対応研修を定期的に実施すること。
 また、NPOや在日外国人コミュニティ組織とも連携の下、キメ細かな就労斡旋業務が実施できるよう努力すること。


10)認定難民の本国帰還への支援体制の整備
 本国の政治情勢等の変化により、本国帰還を希望する認定難民およびその家族を支援する体制の整備を図ること。


    以  上