平成13年9月28日

米国の同時多発テロと我が国の対応・「解説編」

◎米国における同時多発テロに対して、政府は「3項目の基本方針」と「7項目の措置」を発表しました。
 また、昨日(27日)、第153回臨時国会が召集され、衆議院では「米国における同時多発テロ事件に関する決議案」が採択されました。
 今国会では、テロ対策として日本が何をなすべきか、特に自衛隊の出動の是非を含め、大きな論争となっています。

◎私の考えを若干述べてみたいと思います。

1.自衛隊の出動は新法で
 自衛隊の出動の根拠を周辺事態法とするか、それとも今回のテロ対策に限った新法とするかが問題とされています。
 周辺事態法は、日本の周辺に発生した事態に対応するための法律です。中東やインド洋は、日本の周辺と言えないことは明白です。仮に、周辺の概念を中東やインド洋まで拡大したら、「地球全体」と同義語になってしまい、日本の守備範囲を「周辺」と限定した意味が失われてしまいます。
 従って、今回予想される自衛隊の出動は、新しい法律を作る以外にないと考えます。

2.新法の目的は、テロ対策に限定
 新法の目的を、日米同盟に基づく米軍支援とするのか、今回のテロに限定した支援とするのか問題になっています。
 新法の目的を日米安全保障条約の延長線上のものと考えた場合、日本の支援は、アメリカの軍事行動に追随的なものにならざるを得ません。ことにアメリカは今回のテロを「戦争」ととらえ、これに対する「報復」を宣言しているのですから、歯止めが利かなくなる恐れがあります。
 私は、今回のテロは、米国民のみならず人類と民主主義社会に対する許し難い挑戦であると考えます。
 日本は国際社会の一員として、テロを地球上から永久に追放するために、主体的に行動をする責務があると考えています。
 従って、新法の目的もテロ対策に限定し、日本国憲法の許容する必要にして十分なものでなければならないと思います。

3.支援の具体的行動は憲法の範囲内で
 支援の内容としては、医療、輸送・補給や被災民に対する支援などが考えられます。憲法9条は、集団的自衛権の行使や武力による威嚇又は武力の行使を認めていません。
 @「支援の実施地域」は、非戦闘地域に限定されるべきです。
 A「武器・弾薬の輸送」は行うべきではないと思います。
 B日本は、人道的見地から「被災民支援」を積極的に行うべきだと考えます。

4.新法は期間を定めた時限立法で
 新法を一般法にすることは反対です。今回のテロに限定した特別法として、かつ一定の期限を定めた時限立法とすべきです。

5.支援の内容については国会の承認が必要
 支援の決定・方法・範囲・規模などについては、国民の代表者である国会の了承が必要だと考えます。

6.テロ撲滅に向けた国際的体制づくりと国際世論の喚起にリーダーシップを
 私は、テロに対する現実的な対応とともに、テロ撲滅に向けた中長期的な視野が必要だと考えます。そのために、日本は、テロ撲滅に向けた国際的体制づくりと国際世論の喚起にリーダーシップを発揮すべきであると思います。
 具体的な提案としては
  @国際刑事裁判所の創設
  Aテロ関連条約の早期批准
  Bテロ資金の取締りの強化
  Cハイジャック防止対策の強化
 などが考えられます。






(資料1)

米国における同時多発テロへの対応に関する我が国の措置について


1 基本方針
(1)テロリズムとの戦いを我が国自らの安全確保の問題と認識して主体的に取り組む。
(2)同盟国である米国を強く支持し、米国をはじめとする世界の国々と一致結束して対応する。
(3)我が国の断固たる決意を内外に明示し得る具体的かつ効果的な措置をとり、これを迅速かつ総合的に展開していく。

2 当面の措置
(1)安保理決議第1368号において「国際の平和及び安全に対する脅威」と認められた本件テロに関連して措置を取る米軍等に対して、医療、輸送・補給等の支援活動を実施する目的で、自衛隊を派遣するため所用の措置を早急に講ずる。
(2)我が国における米軍施設・区域及び我が国重要施設の警備を更に強化するため所要の措置を早急に講ずる。
(3)情報収集のための自衛隊艦隊を速やかに派遣する。
(4)出入国管理等に関し、情報交換等の国際的な協力を更に強化する。
(5)周辺及び関係諸国に対して人道的・経済的その他の必要な支援を行う。その一環として、今回の非常事態に際し、米国に協力するパキスタン及びインドに対して緊急の経済支援を行う。
(6)避難民の発生に応じ、自衛隊による人道支援の可能性を含め、避難民支援を行う。
(7)世界及び日本の経済システムに混乱が生じないよう、各国と協調し、状況の変化に対応し適切な措置を講ずる。



(決議第一号)

米国における同時多発テロ事件に関する決議案(藤井孝男君外八名提出)

 九月十一日に米国を襲った同時多発テロは、命の尊さを全く顧みない残虐非道な行為であり、かかるテロリストの想像を絶する暴挙は、ひとり米国民のみならず、人類すべてに対する共通の許し難い挑戦である。
 本院は、不幸にもテロの犠牲となられた多数の方々に対し、心から哀悼の意を表するとともに、ご家族や関係者みなさまの深い悲しみと激しい怒りを分ち合うものである。
 本院は、今回のテロ行為に責任を有する者が法と正義の下に裁かれるべきことは当然のことながら、断固とした決意で国際テロと闘わんとしている米国政府及び米国民を支持し、テロ行為を地球上から追放することが国際社会の一員である我が国の重大な責務であることをここに宣言する。
 よって政府は、我が国及び国民の危機の際しての安全確保のため全力を傾注するとともに、米国をはじめ関係諸国と力を合わせつつ我が国として可能な限りの協力を行い、また、国際連合を中心とする国際機関の活動に積極的に参加することをもって、民主主義社会の安全と発展のために主体的な役割を果たすべきである。
 右決議する。