令和5年1月25日
第5ノ巻(伊吹文明幹事長編)】
 
「今ハ昔、自民党幹事長ニ伊吹文明トイウ人、アリケリ」



― 伊吹軍師の読み的中!民主党政権の瓦解―

〇2009年8月30日に行われた第45回衆議院議員総選挙は、自公連立政権にとって悪夢のような結果になりました。

 民主党は、選挙前を大幅に上回る308議席を獲得しました。193議席の増です。議席占有率は、何と64.2%にも及び、単一の政党が獲得した議席・議席占有率は現行憲法下で行われた選挙としては過去最高の数値でした。

 一方、自民党は119議席を獲得しましたが、公示前議席より181議席の減少となり、1955年の結党以来初めて、衆議院第1党の地位を失うことになりました。我が党も21議席を獲得しましたが、公示前議席より10議席の減少、更に太田代表はじめ小選挙区候補全員落選という壊滅的な敗北となりました。

 民主党政権の誕生です。メディアは、この政権交代を「平成の民主的大革命」「平成の無血革命」などと絶賛しました。国会内は、民主党議員で溢れ、若い新人議員が「そこ退け、そこ退け、民主が通る」と言わんばかりの勢いで廊下を闊歩しています。自民・公明両党にとって、先の見えない辛い、不安な日々の始まりです。


〇圧倒的な国民の支持を得た民主党政権が、あれよ、あれよという間に瓦解!

 こんな劇的な政権の崩壊を予測できた人は、自民党伊吹文明幹事長しかいなかったと思います。


〇2幹2国(自民党と公明党の幹事長と国対委員長の会合)の席上、伊吹幹事長が切り出したのです。「政府提案の消費税増税法案に自公も賛成しようよ。そうすれば、消費税増税反対の小沢氏が50人連れて民主党を割って出ます。その後、バラバラと離党する者が続き、民主党は瓦解します」と。当時、誠に申し訳ないことですが、自公の幹部の中で伊吹幹事長のこの言葉を正面から受け止める人はいませんでした。余りにも突飛な発想と思われたからです。

 自公両党は、当初は消費税10%増税法案に反対でしたが、その後、軽減税率の導入等を条件に賛成に変わりました。


〇皆さん!全く信じられない事が起きました。

 伊吹幹事長の読み通り、小沢氏が50人の仲間を連れて民主党を割って出たのです。その後もバラバラと離党の流れは止まりません。

 そして終に、2012年12月16日の総選挙です。民主党の獲得議席57議席。前回の総選挙で獲得した308議席から実に251議席の減です。自民党の獲得議席は、294議席(+176)、公明党の獲得議席は、31議席(+10)でした。自民・公明両党の完勝です。そして民主党政権の終焉です。


〇この総選挙で自公は政権を奪還しました。伊吹幹事長の読みが正に的中したのです。軍師、伊吹文明先生の面目躍如ですね。

 先生は、その後この謎解きをして下さらないまま、政界を去ってしまわれました。一度、ゆっくりお話を伺いたいと思っています。
                              

―伊吹議長、「連立の信義」を説く―


〇2012年12月、自公は政権を奪還し第2次安倍内閣が誕生しました。政権を失って3年3か月、風雪に耐えての政権復帰です。

 しかし、喜びも束の間、公明党は、予想もしなかった大難に見舞われます。


〇なんと、安倍総理が、集団的自衛権の行使容認を目論み動き出したのです!

 安倍総理は、自分の私的諮問機関である「安保法制懇」に憲法第9条の解釈を変更させ、「現行憲法下においても集団的自衛権の行使は可能」との結論を出させようとしたのです。

 憲法第9条の集団的自衛権の行使容認問題は、自公連立に関わる大問題です。

公明党に事前の相談もなく、総理が勝手に暴走しだしたのです。私達は、安倍総理の突然の動きに大変驚き戸惑いました。


〇そんな折、12月もやや押し迫った頃でした。伊吹衆院議長が、公明党国会対策委員長である私、自民党国会対策委員長の佐藤勉氏、内閣官房副長官の加藤勝信氏を議長公邸に呼んでくれました。

 夕食を共にしながら、伊吹先生は私に「安倍総理の集団的自衛権論の動き、公明さんは、どのように見ていますか?」との問いがありました。私は、「我が党としては、集団的自衛権の行使を容認することは出来ません」と率直にお答えしました。


〇伊吹先生は、私の話を補足して、次のように佐藤国対委員長や加藤官房副長官を諭されたのです。

・2009年、自公は、政権を失い野党に転落した。

・本来、野党連立などないのだから、その時点で公明さんは自民党と別れて、民主党と連立政権を組む選択肢もあったはずです。

・それでも公明さんは、自民党を見捨てず、労苦を共にして今日まで一緒に戦ってくれたのです。

・政権を奪還したとたん、公明さんが一番困る集団的自衛権の行使容認問題を持ち出すなんて、連立の信義に悖ります。

・佐藤さんや加藤さんは、安倍さんに一番近いのだから「公明さんが困ることは、止めるべきだ」と安倍さんを説得して下さい。

・そして最後に「うるさん、これでいいですか」とにっこり。私は、今でもあの伊吹先生の笑顔が忘れられません。


〇三権分立の観点から、衆議院議長が内閣総理大臣に物を申すことは出来ません。伊吹先生は、私的な夕食会という形式の中で公明党の弁護をしてくださったものと深く感謝を申し上げます。


〇その後、自公の真剣な協議によって、自公連立の最大の難関を乗り越えることが出来ました。

 今、振り返りますと、伊吹議長を始め大島副総裁、二階総務会長など沢山の自民党の皆さんが公明党を支えてくださいました。そして何よりも、安倍総理ご自身が自公連立の観点から、集団的自衛権の行使容認を断念するという大きな政治決断をされたことに深く感謝を申し上げます。

偏に、野党時代の「3年3か月」、風雪の下で築き上げられた強い信頼と深い友情の賜物です。

 了


令和5年1月25日
元公明党国会対策委員長
弁護士 漆原 良夫