― 悪代官と越後屋 ―
〇「悪代官」と「越後屋」命名の由来
・悪代官は、自民党国対委員長の大島理森氏、越後屋は、公明党国対委員長の私です。
このニックネームの由来を大島氏と私の風貌に求める説もありますが、それは間違いです。
・2010年2月。民主党に政権交代後初めての予算委員会です。
野党に下野した自民・公明が、民主党政権に如何に斬りこむか、国民の注目度は甚大です。誰に、どんなテーマで論陣を張ってもらうか。ここが、野党自民・公明党にとって一番の勝負どころでした!
・大島さんと私は、テーマを「年金問題」に絞りました。それは、民主党がマニフェストで公約した「月7万円の最低保障年金」には、次の通り大きな欠陥があります。その欠陥を国民の前に明らかにして徹底的に追及しようと決めたのです。
その第1は、月7万円の最低保障年金を何時からもらえるか、という時期の問題です。国民にとって最大の関心事です。民主党政権になったら、すぐにでももらえると思っていたら違うのです。なんと40年後にようやくもらえるという話でした。
第2は、負担の問題です。その財源として、保険料や消費税の大幅増額が必要になります。例えば、年収400万円の自営業の方は、現在の月額15,020円の保険料が月額50,000円になります。消費税率も最低保障年金実施の財源として更に7.1%の引き上げが必要となります(従って消費税は全部で17.1%になってしまいます)。
・私は、大島委員長に言いました。「月7万円の金額を給付しようとすれば、現在の保険料では足りない、現在の保険料を維持しようとすれば、月7万円の給付が出来ない。これは、王手飛車取りですよ!」と。
すると大島氏が、突然大きな声で「ウルちゃん!ぬしも、悪ヨノー」、すかさず私は「いえいえ、お代官様の悪知恵には、とても叶いません」と応じたものでした。
・天網恢恢疎にして漏らさず。この様子を見ていた人がいたのです。S社のⅯ記者です。翌日の朝刊の囲み記事では、「まるで、悪代官と越後屋の悪だくみ」と書かれていました。
悪代官と越後屋の誕生です。
― どっちがどっち? ―
〇ある日、大島委員長がニコニコ顔で「ウッシシ!ウルちゃん、公明党の国対委員長はワシじゃ!」と勝ち誇った顔。
どこかのTV局が、大島氏と私の顔写真を張り出して「どっちが自民党で、どっちが公明党の国対委員長か印をつけてください」とやっていたらしいのです。その結果、私より大島氏の方に、公明党国対委員長の印が沢山付いたのだそうです。「ムムム・・・残念」と私。
〇今から10年位前、大島氏と私が並んで毎日、国対委員長記者会見をやっていた頃の話。正に「今ハ昔」ですね。
― 大島言行禄 ―
〇韓信(中国、漢初の武将)の股くぐり
・大島国対委員長時代は、衆参のねじれ国会。
参院民主党の国会対応で苦戦を強いられました。
① 日銀総裁人事案に参院が同意せず、総裁空白という異常事態が3週間も続いた。
② ガソリンの暫定税率延長を含む税制関連法案につき、衆議院の「みなし否決」や「再議決」の措置を余儀なくされる。
③ 参院本会議で、首相問責決議案が可決。
・大島委員長「韓信の股くぐり、今は辛抱じゃ!」と口癖。数に勝る参院は、「文句があるなら解散して信を問え」とばかり否決権の乱発。与党国対としては、ただ耐えるしかない辛く苦しい国会運営でした。
〇対立する見解の調整能力は国会随一
・ネジレ国会下でも、与党国対委員長として野党との法案調整に抜群の成果。
・衆院議長に就任されてから、天皇の生前譲位、衆院の定数是正問題に能力を存分に発揮し、与野党合意のうちに法案の成立を図る。
かつての「悪代官」は、今や「名奉行・大島理森!」です。
〇「秘中の秘」、大島カレンダーの存在。
・通常国会は、150日間の長丁場です。政治は、生き物、「一寸先は闇」。何が起きるか分かりません。与党の国対としては、重要法案の成立と予算案の年度内成立は至上命題です。
一瞬の油断もできず、緊張の日々が続きます。
・大島委員長は、国会開催前の数日間、自室に籠り、カレンダー作りに専念します。
このカレンダーには、予算案や重要法案の審議日程・行程表、総理の外遊日程、法案に反対する野党対策まで、国会を乗り越える与党の戦略がビッシリと書かれています。
世にいう「大島カレンダー」です。
・国会は、大島カレンダー通りに動くと言われています。しかし、私も含めてこの「大島カレンダーを見た!」という人に会ったことがないのです。
それじゃ、そんな物は、元々存在しないのではないか? いや、そうじゃないんです。大島さんと国会運営を共にした人は、与野党を問わず異口同音に言います。「見たことはないが、雰囲気としては在る」と。
大島国対委員長が、国会運営の天才と言われる所以ですね。
〇大島委員長は、古武士の風格。
・大島委員長の愛読書・・山本周五郎著「樅ノ木は残った」「ながい坂」「ちいさこべ」「さぶ」「栄花物語」、葉室麟著「いのちなりけり」」「蜩の記」など。私も、よく勧められて読みました。
・教わった人生訓・・・大義に生きよ。小をいとおしむ心。
・歌・・酒を飲むと大島委員長は、「人生の並木道」をよく歌っておられましたね。
了