令和7年9月5日
【令和7年第4弾
 
―多党制時代の連立―

 

皆さん、今日は!
9月に入ってもまだ猛暑が続いています。いかがお過ごしでしょうか。もう少しの辛抱です。どうかご自愛下さいますようお願い申し上げます。

さて、9月5日付けの毎日新聞朝刊「論点」に、私の自公連立に関する記事が掲載されました。少し手を加え要点をまとめましたのでご一読ください。

―多党制時代の連立―

<「水と油」ではなく「相互補完の関係」>

〇 日本の政治は、連立政権が時代の趨勢です。私は8年間、国会対策委員長を務め、自公政権の国会運営を支える立場にありました。その経験から、連立政権の要諦は、「深い信頼関係」と「適度な緊張関係」が持論です。互いに信頼が無ければ本音は言えず、緊張感が無ければ、馴れ合いになってしまいます。

 自公の連立は、1999年から始まり今日まで、実に憲政史上まれにみる長期連立政権です。憲法観などを巡り、自公の関係は、お互いに交わることのない「水と油」と言われますが、私の考えは、違います。お互いに足らざるところを補い合う「相互補完の関係」だと思っています。

 厚生労働相などを務めた自民の塩崎恭久氏は、自公の関係を「一粒の新薬」に例えて表現しました。この新薬を、自民は「いかにして全国に販売するか」と生産者の目線で、公明は「副作用は大丈夫か」と心配する消費者の目線で考えると。目線の違う自公の連立により、政策のウイング(幅)が広がり、政治のチエック機能が働くというのです。

 私は、塩崎氏のこの説明は、自公連立の本質を突いた実にわかりやすい例えだと思っています。

〇長い自公連立の中で、とても苦しかった話を一つだけ紹介します。

軽減税率の対象品目を巡り、「生鮮食品」に限定する自民案と「加工食品を含めた食品全般」とする公明案が激突しました、自公両党の税務調査会、政務調査会、幹事長を巻き込んだ総力戦となったのです。その時私は、源義経のいわゆる「腰越状」に倣い、官邸中枢だった菅義偉氏と党幹部だった二階俊博氏に手紙を書きました。「自公連立の来し方」と「大衆福祉の公明党」の立場を切々と訴えたのです。二人からは「決して公明の悪いようにはしません。党内調整に一晩だけ待ってほしい」と連絡がありました。すると、翌日には、自民が公明案を全面的に取り入れてくれ決着したのです。私は、安倍総理を始め、自民党幹部の懐の深さに感謝をしました。

*義経の腰越状・・・兄・頼朝のため平家を倒した義経は、意気揚々と京から鎌倉に向って凱旋します。ところが、頼朝から謀反の疑いをかけられ、鎌倉を目前にした「腰越(こしごえ)」で、鎌倉入りを止められます。その時の辛く、切ない気持ちを兄・頼朝に切々と訴えた書状です。腰越の満福寺に展示されています。

<負けに不思議な負けなし>

〇では、そんな自公が、なぜ衆院選と参院選で惨敗したのでしょうか。プロ野球界で活躍された野村克也さんは、「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」と言っておられました。

まさに至言です。負けるには、必ず理由があるのです。私は、自公が負けた理由は、三つあると考えました。

第1は、何事も数の力で押し切った安倍1強時代の「傲慢さ」です。森友・加計問題、桜を見る会問題、安倍派の裏金問題などですね。「決して驕らず」(自公連立合意書)が、自公連立の原点です!

第2は、石破総理の言行不一致問題です。総理になったとたん、選択的夫婦別姓や裏金議員の処遇は、どんどん後退しました。殊に、裏金問題で非公認にした議員に2000万円の選挙資金援助は、石破総理に対する国民の期待を決定的に裏切る結果となりました。

第3は、物価高対策に適切な対応が出来なかった事です。野党の提案に、「あれは出来ない、これも出来ない」と反論するだけで、政府・与党として有効な対策を国民に示せなかった。私は、官邸に仮称「政府・与党物価高対策本部」を設置して国民に可視化し、「政府・与党が、全力で国民を守る」という強いメッセージを示すべきであったと思うのです。

〇反省すべき問題は、公明側にもありました。

・衆院選では、自民党非公認となった裏金議員を「公明党が推薦」をしたため、多くの国民から非難を受けました。

物価高対策では、政府も自民も当初は、公明や野党が主張した「減税」や「給付」には反対でした、しかし参院選直前に急遽、自民・公明は「国民1人当たり金2万円の給付」を与党案として決定し、政府もこれに同調したのです。一貫性を欠くこのちぐはぐな対応が、物価高に苦しむ国民の「納得も共感」も得られず、かえって「選挙目当てのバラマキ」との強い批判に晒されたのです。

・圧倒的多数を誇った自民に対する「遠慮」や長い間の「与党慣れ」によって、平和や人権、大衆福祉、清潔な政治といった、公明の旗印が霞んでしまったのではないでしょうか。

<公明の「旗」を高く掲げよ>

〇連立の中に在って、我が党の独自性を発揮するためには、自信を持って「公明党の旗を高く掲げよ!」と申し上げたい。遠慮や忖度など安易な妥協は、禁物です。

クリーンな政治の実現を目指した「あっせん利得処罰法の制定」、痛税関の緩和の立場から「軽減税率の対象を加工食品も含めた食品全般に拡大」、集団的自衛権の行使容認にブレーキをかけた「平和安全法制」、国民1人当たり10万円の「特別定額給付金の実現」などなど、連立そのものを揺るがしかねない難問が沢山ありました。しかし自公は、その都度、「本音」でぶつかり、激論を戦わせたからこそ難題を乗り越えることが出来たのだと思っています。

<多党制の時代と連立の形態>

〇衆参で少数与党、しかも野党も含めてどの党も過半数を有しないという多党制時代の連立の形態。考えられる形態3つあります。

 第1は、自公を中心として野党の一部と連立、第2は、自公が下野し、比較第2党の立憲民主党を中心としたオール野党連立、第3は、全政党を対象にした政界再編後の連立です。

 しかし、今は「トランプ関税」など、国難の時代。野党第1党の立憲民主党に、他の野党をまとめて行く政権運営能力があるかどうかは、疑問です。また第3の形態の実現には、長い政治空白が不可欠です。このように考えると、自民と公明を中心として野党の一部と連立する第1の形態が、最も現実的という事になります。

〇一部の野党と連携する場合、政策ごとの「部分連合」いうやり方もあります。しかし、これでは予算のつまみ食いのようになり好ましくありません。政策に一貫性を持たせ、責任を共有してもらうためには、3党による連立政権が望ましいと思います。

ただ、今の政治状況で直ちに3党連立は難しく、現実的には、政策ごとの「部分連合」で進めざるを得ないでしょう。

<岐路に立つ議会制民主主義>

〇日本の政治は、多党制の時代です。しかも、どの政党も過半数を持っていません。憲政史上初めての経験です。

 過半数を持たない多党制には、数の横暴を許さない「熟議の国会」というプラス面もありますが、意思決定の出来ない「機能不全の国会」・「無政府状態」というリスクもあります。

 秋の臨時国会では、参院選で争点となった物価高対策として「消費税減税」か「給付」のいずれかを選択しなければなりません。また、政治とカネの問題も先送り出来ない喫緊の課題です。

多党制時代に入った日本の政治が、本当に機能するか否かが問われる最初の関門です。

〇国会が「熟議の国会」となるか「機能不全の国会」となるか、日本の議会制民主主義は、まさに岐路に立っています。議員一人一人の賢明な判断と行動が、今こそ期待されます。

以上

2025年9月5日        

公明党元国会対策委員長・弁護士 漆原 良夫