令和6年6月20日
【令和6年第4弾
 
― 平和安全法制は合憲と仙台高裁 ―

 

〇仙台高等裁判所は、昨年の12月5日「平和安全法制は憲法9条違反とは言えない」と初の憲法判断を示しました。
 福島県の住民など170人は、「憲法9条1項の下では許されない集団的自衛権の行使を容認する平和安全法制の立法により、平和的生存権等が侵害されたとして」国に賠償を求める訴えを起こしました。これに対して、仙台高等裁判所は「それまで政府の憲法解釈において一貫して許されないと解されてきた集団的自衛権の行使が、このような限定的な場合に限り憲法上容認されると解されることになったとしても、憲法9条1項の規定や憲法の平和主義の理念に明白に違反し、違憲性が明白であると断定することまでは出来ない」と一連の裁判では初めての憲法判断を示したうえで、原告らの訴えを退けました。
 なお、この判決に対して原告側は、最高裁判所に上告しない方針を明らかにしました。上告しない理由として「(今後)最高裁判所で(上告が棄却されて)今回の高裁判決が確定した場合の今後の平和運動への影響などを重く考えて決断した」と説明をしています。

〇仙台高等裁判所の判決内容をもう少し詳しく説明します。判決文ですから、日常とは違って少し読みにくいかもしれませんが、ゆっくりと読んでください。

・判決は、武力行使の新3要件と憲法及び集団的自衛権との関係について次のように述べています。
「平成26年閣議決定と平和安全法制において憲法上容認されると解釈された他国に対する武力行使の発生を契機とする武力の行使は、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置に限られ、一般的な集団的自衛権の行使として許容される当該他国に対する武力攻撃の排除それ自体を目的とする武力の行使は、国際法上は許されるとしても、憲法上は許されないことに変わりがない。
 また他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使は、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況が、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被ることになる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断して認められる場合に限られるという国会答弁に示された厳格かつ限定的な解釈の下に、平成26年閣議決定による武力の行使の新3要件も、存立危機事態における防衛出動を可能にした自衛隊法76条1項2号の規定も、厳格に解釈運用されなければならない」と判示しています。

・そして、そのうえで「平成26年閣議決定による武力の行使の新3要件による限定的な要件や、その厳格かつ限定的な解釈を示した政府の国会答弁も踏まえて検討すると、平成26年閣議決定や平和安全法制によって、それまで政府の憲法解釈において一貫して許されないと解されてきた集団的自衛権の行使が、このような限定的な場合に限り憲法上容認されると解されることになったとしても、憲法9条1項の規定や憲法の平和主義の理念に明白に違反し、違憲性が明白であると断定することまでは出来ない」と判断したのです。

・この仙台高裁判決が、確定したことはすでに述べた通りです。
 これまで度々、集団的自衛権の行使を可能にした平和安全法制は戦争の放棄を定めた憲法9条1項に違反すると非難されることもありましたが、この判決によってその非難は明確に否定されたのです。

〇集団的自衛権を巡る自公の溝
・現行憲法下において集団的自衛権の行使を容認できるか否か、自公で連立をかけた大論争が行われました。
 2012年12月、政権奪還の喜びも束の間、何と!安倍総理自身が集団的自衛権の行使容認を目論んで動き出したのです。 
 安倍総理は、総理の私的諮問機関である「安保法制懇」に現行憲法下での集団的自衛権の行使は可能との報告書を出させ、閣議決定で一気に決着を付けようとしました。
 しかし、公明党は「現行憲法下における集団的自衛権の行使は、許されない」との考えでした。集団的自衛権を巡る自公の溝は、とても大きく、深いものでした。

・自民、公明ともに連立をかけた大議論を展開し、平成26年(2014年)「武力行使の新3要件」を閣議決定しました。

・今回の判決で、「武力行使の新3要件」の存在が合憲判断の根拠となったことを考えると感無量の思いです。        
                                 了


(註)武力行使の「3要件」から「新3要件」へ
政府は、平成26年閣議決定で「パワーバランスの変化や技術革新の急速な発展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。」という問題意識の下に「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅か
され、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきである」と判断し、憲法上許される武力の行使についての従来の政府解釈の@ 、Aを改めて、以下の通り、武力の行使の新しい要件(新3要件)を示しました。

<従来の武力行使の3要件>
@ 我が国に対する急迫不正の侵害があること
A これを排除するために他の適当な方法がないこと
B 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

<武力行使の新3要件>
@ 我が国に対する武力攻撃が発生したこと、または我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
A これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
B 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

                                以上

2024年6月20日
公明党元国会対策委員長  漆原 良夫