令和4年11月4日
【第10弾
 
今、再び問う「政治と宗教」

 

― 光を放つ冬柴質問 ―
 冬柴さんの、「政教分離の真の意味について」という小冊子を読みました。当時の大出内閣法制局長官との丁々発止のやり取り、緊迫感が伝わります。与野党を超えた法律家と法律家の良心の結晶は、28年を経過した現在も色褪せることなく輝いています。
 まことに僭越ではありますが、1994年10月12日(村山内閣)衆議院予算委員会に置ける冬柴質問(答弁者・大出内閣法制局長官)の要旨を纏めさせていただきました。
         
             記
1,<結論> 「政教分離の規定は、国家権力の宗教介入を排除したものであって、宗教団体の政治活動を排除したものではない」

・大出政府委員の答弁 政教分離の原則と言いますのは、国及びその機関が国権行使の場合において宗教に介入し、あるいは関与することを排除する、こういう趣旨であるというふうに解しておるわけであります。
  それを超えまして、宗教団体が政治活動をすること、そういうことまで排除する、こういう趣旨の規定ではない。

2,<結論> 「憲法第20条後段の、いかなる「宗教団体も政治上の権力を行使してはならない」とは、宗教団体の政治活動を禁止したものではない」

・(註・私)当時、政治上の権力を政治活動と拡大解釈をして、この規定を根拠に「宗教団体の政治活動が禁止されている」と主張する者がいた。
 
・大出政府委員の答弁 「政治上の権力」というのは、国または地方公共団体に独占されている、そういう統治的な権力、そういったもの・・・中略・・・。宗教団体が、このような統治的権力を行使することを禁止したものである。

・冬柴委員 国や地方公共団体が本来独占すべき、例えば立法権、あるいは課税権、あるいは裁判権、あるいは公務員の任免権・・その一部を特定の宗教団体に授権する、そして授権された統治的権力を宗教団体の名において行う、そういうことを禁止する(趣旨)。

・大出政府委員の答弁 憲法を制定するときの第90帝国議会における当時の金森国務大臣の答弁。「国から授けられた正式な意味において政治上の権力を行使してはならぬ」と説明されておる。
  つまり、国や地方公共団体から統治権の一部を授けられて、そして行使する、そういうことはいけない、(という趣旨)。

・金森国務大臣の答弁 (「政治上の権力を行使してはならない」と定めた)憲法20条1項後段に関し、同条項は、宗教団体が「政治上の運動をすることを直接的に止めた意味ではない」と説明。

3,<結論> 「宗教団体には、選挙運動を含め政治活動の自由が憲法で保障されている」

・大出政府委員の答弁 (宗教団体がその教義に基づき一定の政策を持つことに憲法上問題があるか、との問いに対して)憲法の21条の表現の自由の一環として、そういう団体が政治的活動をするということは尊重されるべきである。

・大出政府委員の答弁 (この政策を実現するために政見を同じくする公職の候補者を推薦し支持することは宗教団体に許されるか、との問いに対して)宗教団体は、憲法上の問題として考えますと、政治的な活動というものが許される、その中にはいわゆる選挙運動と言われるようなものも含まれておる。

・大出政府委員の答弁 (選挙運動の一環として宗教施設を利用することは政教分離の規定に反するか、との問いに対して)憲法上の問題としましては、宗教団体が政治活動をすることが排除されているわけではない。

4,<結論>「宗教団体が推薦・指示した候補者が当選して大臣になっても憲法の政教分離の原則上、何らの問題はない」

・大出政府委員の答弁 当該宗教団体と国政を担当することとなった者とは、法律上は別個の存在・・中略・・したがって、直ちに政教分離の原則にもとる事態が生ずるものではない。

以上

          
統一教会問題について

〇統一教会問題は、いわゆる「政治と宗教」の問題ではない。
 
・中北浩爾・一橋大教授 政治と「反社会的集団」との関係と見るべきだ。社会的に問題がある団体とは、距離を置くというのが本質だ。

・北側公明党副代表 宗教団体に限らず反社会的な団体と政治家との関わりについては、支援を受けたり行事に参加したりということは、慎重でなければならない。団体に利用されることにもなりかねない。

・青沼陽一郎 オウム真理教では教祖の麻原彰晃がダライ・ラマに面会したことから、教団を信じ、入信した信者も少なくなかった。
  国会議員が「反社会的な団体」のイベントに顔を出したり、登壇して挨拶したり、祝電を送るだけでも、安心できる。

〇統一教会を巡る政府や国会の動き

1、文部科学省による、宗教法人法に基づく「質問権」の行使。
2、被害者救済対策を検討する与野党協議会→議員立法

<報告聴収、質問権の行使>
 ・解散命令請求を行う事由に該当する「疑いがある」と認めるときは、所轄庁は、宗教法人に対して報告徴収・質問権を行使できる(宗教法人法第78条の2)。

 ・岸田総理は、10月17日永岡文部科学大臣に調査の指示の指示。年内に質問権行使。初めてのケース。

<解散命令の請求について>
 ・裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権でその解散を命ずることができる(宗教法人法第81条)

1 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
2〜5  略

 ・解散命令の事例 @オウム真理教 A妙覚寺(霊感商法・詐欺事件)・・・いずれも宗教団体ぐるみの組織的な刑事事件。

 ・総理は、解散請求の事由には、「民法の不法行為も該当」と答弁を変更。「行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかな場合には、民法の不法行為も入りうる」と答弁。

<被害者救済対策検討の与野党協議会の現状>
  1、消費者契約法の改正・・・不当契約の取り消し権の対象拡大、取消権の行使期間の延長(現行法では追認できる時から1年、契約から5年)。与野党ともに今国会で法改正の方向。

2、高額献金を規制する新法制定・・・立憲民主党、日本維新の会の野党は、マインドコントロール下での高額献金や物品購入を罰則付きで禁止することや、家族などが本人に代わって契約を取り消し、返金を求めることのできる制度の創設。

・(検討課題)@マインドコントロールの定義。A献金等の上限設定と憲法第29条の関係。 B上限4分の1とした場合、資産調査権を教団に与えることになりかねない。C第3者取消権と契約自由の原則との関係など。

・野党は、今国会で新法の制定を強く要求。与党は、被害者救済の必要性は認めつつも、法的整合性の観点から十分な検討が必要。今国会中の成立には難色を示す。

以上