「共謀罪」Q&A まとめ編

 公明党法務部会長の漆原良夫です。共謀罪の新設について、メールや手紙などで沢山の御意見や質問を頂きました。
 今度Q&Aの形で、共謀罪について説明をさせて頂きました。
 私達は、共謀罪に対する国民の皆様の不安を払拭しつつ、国際社会と協力して組織的犯罪集団の犯罪から国民の生命、身体、自由、財産を守ってゆきたいと考えています。

Q1.「共謀罪」を新設する理由は何ですか。

国際的な犯罪組織によるテロ事件、薬物密輸入事件、女性や子供の人身売買事件、集団密航事件が多発しています。
 これらの組織的犯罪集団の犯罪を防止し、市民の生命、身体、自由を護るために、2000年11月、国連において「国際組織犯罪防止条約」が採択されました。
日本は、2003年5月に、自民・公明・民主・共産の賛成で、国会で承認されました。
この条約の中に「共謀罪」を新設することが義務付けられているのです。
日本も、国際社会の一員として、この条約を早期に締結して、国際社会と協力して国際的組織犯罪を防止しなければならないと思います。
 

Q2.各国の条約の締結状況は、どのようになっていますか。

現在の締結国数は、121カ国となっており、未加盟国はキューバ、北朝鮮、イラン、イラクなどです。
G8諸国の締結状況は、次のとおりです。
  アメリカ  締結済み(H17.11)
  イギリス  締結済み(H18.2)
  フランス  締結済み(H14.10)
  カナダ   締結済み(H14.5)
  ロシア   締結済み(H16.5)
  ドイツ   議会承認済み(国内手続を終了し、近く締結の予定)
  イタリア  議会承認済み(国内手続を終了し、近く締結の予定)
G8諸国で国内手続すらも終了していない国は日本のみということになりました。
 組織的犯罪の防止という国際社会の責務を果たすために、一日も早く条約を締結すべきだと考えています。
 
Q3.この条約を締結しなかったら日本はどのような不利益を受けるのですか。
国際的な組織犯罪から、我が国の国民を守ることが出来なくなります。
 具体的には、外国から共謀罪についての捜査共助や犯罪人引き渡しの要請があった場合に、法案の共謀罪が新設されていれば、外国からの要請に応じて捜査共助や犯罪人の引き渡しを行い、国際社会と協力して組織的な犯罪の防止に取り組むことが出来るようになります。
このように、共謀罪を含む本条約が締結されない場合、組織的な犯罪を防止しようという国際的なネットワークから日本が脱落し、組織的犯罪の大きな“抜け穴”となりかねません。
 
Q4.共謀罪の新設について、不安や批判がありますが、どのような理由によるものでしょうか。
政府の法案では、すべての「団体」が共謀罪の対象となると解釈される余地がありました。そのため、健全な活動をしている民間の会社や労働組合、NPOなどの市民団体の活動も共謀罪の対象となり処罰されるのではないかとの不安が広がりました。
又、共謀罪は、犯罪実行の意思の合意だけで成立し、外形的な行為は必要とされません。
 そのため、単なる“目くばせ”や“ウィンク”などでも共謀罪が成立することになり、捜査当局の乱用を許すことにならないかとの批判がなされました。
 
Q5.公明党は、共謀罪の新設に賛成と聞いていますが、これらの国民の不安や批判に対してどのように考えているのですか。
Q4の不安や批判は、公明党としても全く「そのとおり」と考えます。
そこで私達は、国民の皆様の不安や批判を解消するために、政府の法案を次のように修正し、与党案として提出しました。
 修正の第一は、共謀罪の対象となる「団体」を「組織的な犯罪集団」に限ることを条文上明らかにしました。
 これによって、一般の会社や労働組合やNPOなどの市民団体が共謀罪の対象とならないことが明確になりました。
 修正の第二は、共謀罪として処罰するためには、単に「合意」だけではなく「犯罪の実行に必要な準備その他の行為が行われた場合」(オーバートアクト)を要件としました。
 即ち、単に共謀をしただけの段階にとどまる場合には処罰をすることができず、更に進んで実行に向けた外部的な行為が行われた場合にはじめて処罰の対象とすることにしたのです。
 これによって、単なる“目くばせ”や“ウィンク”では処罰することはできず、又、捜査当局による恣意的な捜査の乱用も防げるものと思っています。
 
Q6.組織的犯罪集団について、共謀罪を新設する必要性を説明して下さい。
組織的犯罪集団によって犯罪の実行が決定された場合には、単独で犯罪実行の決意をした場合に比べて犯罪実行の可能性が格段に高いと言えます。
 従って、組織的犯罪集団の犯罪から国民の生命、身体、自由、財産を未然に防止するためには、犯罪の実行を待つまでもなく「共謀」の段階で処罰する必要があります。
 
Q7.組織的犯罪集団とは、どのような団体ですか。
テロ集団・暴力団・振り込め詐欺集団などが考えられます。
 
Q8.オーバート・アクトについて説明をして下さい。
与党修正案の「実行に必要な準備その他の行為」とは、一般的には次の要件が必要となると考えています。即ち
 @ 共謀が成立した後の
 A 共謀の段階を超えた(共謀する行為とは別の)
 B 犯罪の実行のために「必要な準備行為」又は「これに準じるような行為」
 を考えています。
具体的には、例えば「ある場所にレンタカーで赴き、そこで凶器を用いて殺人を実行する」という共謀がなされた場合、犯行現場の下見をする行為、凶器を購入する行為、犯行現場に赴く行為などは「実行に必要な準備その他の行為」に該当し得ると考えられます。
 また、共謀がなされた後、犯行現場の下見をするために共犯者との集合場所に赴くためのレンタカーを予約する行為なども同様に「実行に必要な準備その他の行為」に該当し得ると考えられます。
 
Q9.現行刑法では共謀罪は例外的なケースとして認められています。
  しかし、共謀罪が新設されて615個もの罪に適用されるとすると、原則と例外が逆になってしまうのではないでしょうか。
御指摘の通り、犯罪は「実行の意思」と「実行行為」があってはじめて成立するというのが原則です。
 しかし、共謀罪は犯罪実行の合意だけで成立し、実行行為は必要とされません。現行刑法でも、内乱罪や外患罪などの重大な犯罪について例外的に共謀罪が認められています。
新設された共謀罪が615個の罪に適用されることになると、原則と例外が逆転するのではないかとの疑問は、もっともだと思います。
 しかし共謀罪の対象となる団体を組織的犯罪集団に限定し、一般の国民や団体はその対象とならないこととしています。
 従って、新設される共謀罪は「組織的犯罪集団に限って例外的に適用される犯罪」と言うことが出来ると思います。
 
Q10.民主党は共謀罪の新設に賛成なのでしょうか
民主党も賛成です。
 
Q11.民主党も修正案を提出したと聞いていますが、与党案とどこが違うのでしょうか。
基本的には、与党修正案と同じく、共謀罪の対象となる犯罪をできるだけ限定しようと努力されています。
 しかし、与党修正案の「団体性の限定」と「オーバートアクト」の外に、次の二つの要件を要求しているところに根本的な違いがあります。
 その一つは、共謀罪の対象となる犯罪を「長期5年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪」としている点です。
 この点、政府案では「長期四年以上の懲役又は禁錮の刑が定められている罪」とされています。民主党はこの「長期5年超」の要件を追加することによって、共謀罪の対象犯罪の数を政府案の615個から300個に減らすことが出来るとしています。
 二つ目は、「国際性」即ち、2つ以上の国にまたがる犯罪であることを要件としています。従って、例えば日本国内で犯罪を実行することを共謀しただけでは、共謀罪は成立しないことになります。
 
Q12.民主党案の「長期五年超の罪」や、「国際性」を要件とすることは、条約に違反するのでしょうか。
「長期5年超の罪」や「国際性」を共謀罪の成立要件とすることは「国際組織犯罪防止条約」に違反します。従って、もしも、この要件を付加したならば、日本はこの条約を締結することが出来なくなってしまいます。
それでは、この点について、条約に従ってもう少し具体的に説明したいと思います。

 <長期5年超の罪> について
  条約では、共謀罪の対象となる「重大な犯罪」とは「長期4年以上の自由を剥奪する刑」と規定されています。従って、「長期5年超の罪」を要件とすることは、明確に条約に違反することになります。
  又、「長期5年超の罪」とした場合には「長期5年以下の罪」が共謀罪の対象から外れることになってしまい、暴力団などによって行われる次のような典型的な組織犯罪が適用対象から外れてしまうという、不当な結果となります。
 ・賭博場開帳等図利 ・人身買受け ・児童売春周旋
 ・ヤミ金融業者の高金利の契約 ・集団密航者を入国等させる行為
 ・組織的な常習賭博 ・向精神薬の輸入等 ・臓器売買等

<国際性> について
 条約では「国際的な性質・・・とは関係なく定める」と規定されています。従って、「国際性」を要件とすることは、この条件に明確に違反することになります。
 
Q13.条約を締結した121カ国の中で「長期5年超の罪」や「国際性」を要件としている国はあるのでしょうか。
ありません。日本だけがこの要件を付加した場合には、国際社会からの批判を免れないと思います。
 
Q14.共謀罪はとても恐ろしい法律だと思っていましたが、国民の生命、身体、自由、財産を犯罪集団から守るための法律だと言うことがよくわかりました。
 しかし、まだまだ私のように誤解しておられる方が多いと思います。
政府はこの法律の内容について、もっと国民に理解をしてもらうように努力をすべきだと思いますが、いかがですか。
そのとおりです。共謀罪は、国民を弾圧するための法律ではなく、組織的犯罪集団の犯行から国民の権利を守るための法律だということを御理解いただいて、大変嬉しく思います。
どんなに良い内容の法律であっても、国民の皆様の御理解がなくては成立しません。
 政府も私達与党議員も、もっともっと十分に説明をし、国民の皆様の不安や疑問を解消してゆく努力が必要だと思います。