「共謀罪」Q&A

解説ワイド/組織的な犯罪を罰する共謀罪 Q&A/与党が修正案提出し、国民の不安払しょく/会社など普通の団体や、一般生活上の行為は対象外に
 テロなどの組織犯罪と闘うために「組織的な犯罪の共謀罪」を新設する政府法案が国会で審議されています。与党は修正案を提出し、共謀罪の対象を限定するなど、国民の不安払しょくに努力しています。Q&Aで、共謀罪のポイントを解説します。
 『Q なぜ今、共謀罪なのですか?』
 『A 国連条約の国会承認から3年。テロや麻薬取引など組織犯罪と闘う法整備が必要です。』
 国際社会はテロや麻薬取引、人身売買、殺人など組織犯罪との闘いを続けています。その一環として2000年に国連で採択された国際組織犯罪防止条約は、各国が組織犯罪を処罰するための法律として「組織的な犯罪の共謀罪」(共謀罪)をつくることを求めています。日本では03年5月、政府がこの条約を締結することを自民、公明、民主、共産各党の賛成で国会承認しました。
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 これを受け政府は、条約締結のために共謀罪を新設する法案を03年に国会提出しましたが、衆院解散などで審議が遅れていました。これまでの審議の中で、共謀罪についての論点も集約され、国民が政府案のどこに不安感を抱いているのかも明らかになっています。
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 不安は二つに整理できます。一つは心の中の合意(共謀)だけで処罰されるため、思想まで処罰されるのではないかという不安。もう一つは、会社やNPO団体など普通の活動をしている団体までも、共謀罪の対象にされるのではないかという不安です。そこで、公明党はリーダーシップを発揮し、国民の不安を払しょくするため、与党として修正案をまとめ、今国会に提出しました。
 『Q 心の中の合意(共謀)だけで処罰するのは行き過ぎでは?』
 『A 与党修正案により、合意だけでなく、下見など客観的な行為があったときに、処罰されます。』
 日本の刑法の原則では、犯罪を意図する心の中の「故意」と、実際に犯罪を行う「実行行為」がなければ処罰されません。例えば心の中で殺人をしようと考えただけでは処罰されません。
 しかし、条約が求める「組織的な犯罪の共謀罪」(共謀罪)では、共謀という心の中の合意だけで処罰されることになります。
 その理由は、テロ集団や暴力団、詐欺集団などの犯罪組織は、組織の論理によって構成員が命令通りに動くために犯罪実行の可能性が非常に高く、しかも、組織犯罪が重大な結果を招き、莫大な不正利益を生み出すことがよく知られているからです。そのため、共謀の段階で犯罪を阻止することを求めています。
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 国連の国際組織犯罪防止条約は、共謀罪と、犯罪集団への参加を処罰する参加罪の両方か、またはどちらか一方を国内法として整備するよう求めていますが、政府は、参加罪はあまりに日本刑法の考え方と違うため、取り入れませんでした。しかし、共謀罪も日本刑法の原則とは異なり“心の中の合意だけで処罰される”ことで、国民の間に不安感が高まりました。
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 そこで、公明党は昨年の国会審議の中で、心の中の合意だけでなく、一定の客観的な行為、例えば、逃走経路の下見のような犯罪実行に役立つ行為があってはじめて処罰ができるよう修正することを政府に求めていました。
 しかし、政府は修正に応じなかったため、今国会ではその内容を盛り込んだ与党修正案を提出して政府に論戦を挑んでいます。犯罪実行に役立つ一定の行為を共謀罪の要件にすることは、米国法のオバートアクト(顕示行為)という法理であり、条約も、その採用を認めています。
 『Q どんな団体が共謀罪の対象になるのですか?』
 『A 与党修正案によって、明らかな犯罪組織だけが対象になります。』
 「組織的な犯罪の共謀罪」(共謀罪)の対象となる団体について、政府案は、「団体の活動として犯罪実行のための組織により行う犯罪」または、「団体の不正権益の獲得、維持、拡大の目的で行う犯罪」を共謀した場合に処罰するとしています。しかし、これでは拡大解釈されて一般の会社やNPO、市民団体までも対象にされるのではないかとの不安が出され、公明党も昨年の国会審議で修正を求めてきました。
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 この点について与党修正案では、共謀罪が対象とする団体について、「その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体」と明確に限定し、テロ集団や暴力団、詐欺集団といった犯罪組織だけが対象になることを明確にしました。
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 与党修正案では、もし仮に一般の会社が、たまたま重大犯罪を行うことを共謀し、団体として意思決定した場合でも、そのことだけで直ちに「共同の目的」が一変し、その団体が「共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体」になるわけではないため、共謀罪の対象外になります。与党修正案が共謀罪の対象とするのはあくまで犯罪組織であり、犯罪行為を行うことが、そもそもその団体の構成員が継続的に結びつく基礎になっていると認められる団体に限られます。
 『Q 「共謀罪」新設で“監視社会”になりませんか?』
 『A 新たな捜査手段は導入されず、捜査の手法は他の犯罪と同じです。』
 「組織的な犯罪の共謀罪」(共謀罪)ができると、「○○が怪しげな謀議をしていた」などと通報することが奨励される、あるいは捜査権限が拡大され、共謀の話し合いを探るために室内会話までも傍受される、市民団体にスパイが送り込まれるなど、監視社会になるのでは、などの懸念が出され、一部マスコミも取り上げています。
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 しかし、これらは誤解です。共謀罪が対象にするのは、明らかな「犯罪組織」が行う「重大な犯罪」の「共謀」であり、そもそも会社やNPO団体などは対象外で、一般的な社会生活上の行為は共謀罪の対象になりません。しかも、共謀罪の新設とともに新たな捜査手段が導入されることもなく、捜査は現行法令に基づく範囲内で行われます。
 『Q 民主党の修正案はどんな内容ですか?』
 『A 条約が求めている内容と違うため、成立しても締結できません。』  
 民主党の修正案は、「組織的な犯罪の共謀罪」(共謀罪)が対象とする「重大な犯罪」が、政府案では殺人など615にも及び広すぎるとして、その数を減らすよう求めています。さらに、共謀罪が対象とする「重大な犯罪」を、国際性(越境性)のある犯罪に限定するよう求めています。
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 しかし、民主党修正案は、そもそも国連の国際組織犯罪防止条約が認めていない内容です。政府案が対象にした「重大な犯罪」が615に上るのは、条約が、死刑、無期または4年以上の懲役刑または禁固刑に当たる犯罪を対象にするよう求めているからです。民主党の修正案は、「4年以上」を「5年以上」にして数を減らすよう求めていますが、これでは条約の規定に反することになります。
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 また、国際性(越境性)を共謀罪が対象にする「重大な犯罪」の要件にすることも、条約は認めていません。条約は「重大な犯罪」を国際的な性質とは関係なく定めるよう明記しています。もし、暴力団が国内で組織的な殺人を共謀した場合、国際性を要件にすると、共謀罪で処罰し、犯罪実行を未然に防ぐことができません。組織犯罪は国際的でも国内だけで行われる場合でも社会的な危険性に変わりありません。
(平成18年5月4日付け公明新聞より転載)