Q&A「あっせん利得罪」



衆議院本会議にて、与党案提案者として答弁(平成12年10月5日)
 
「あっせん利得罪」について、Q&Aとして解説を掲載いたします。
皆様の理解の一助になれば幸いです。

 政治家などが口利きの見返りに報酬を受け取ることを禁止する「あっせん利得処罰法案」が11月10日衆議院本会議で、自民、公明、保守三党が提案した与党案が賛成多数で可決され、参議院に送付されました。【★1参照】(野党案は否決)

 漆原良夫は、与党案の提案者として本会議で答弁する等、「日本の政治の質を変える」ための本法案の早期成立へ向け、今後も全力で取り組んでまいります。

【★1】 11月22日参議院本会議にて、賛成多数で原案通り可決、成立しました。尚、施行は来年2月下旬となります。
 皆様のご支援・ご協力、誠にありがとうございました。







Q:.「あっせん利得罪」と「あっせん収賄罪」の違いはなんですか?
 現在、刑法に「あっせん収賄(しゅうわい)罪」という法律があります。この「あっせん収賄罪」とは、政治家が公務員に対し、口利(き)きをして、不正な行為を行わせ、その報酬として賄賂(わいろ)を受け取った場合に処罰されるものです。すなわち、「あっせん収賄罪」では、他の公務員に口利きをして賄賂を受け取ったとしても、口利きをされた公務員の行為が職務上の正当な行為である場合は処罰できません

 これに対して、今回、法制化(法律上の制度とすること)のために論議されている「あっせん利得罪」(正式名称は「あっせん利得処罰法案」)では、政治家が公務員に対して、口利きをして、たとえ正当な行為をさせたとしても、あるいは不正な行為をさせなかった場合でも、その行為(あっせん行為)によって利益を得れば処罰されるという法律です。

 政治家が支持者からさまざまな陳情・要望を受け、それを行政に働きかけ、安心で住みよい社会を作ることは職務の1つですが、これによって(たとえ違法でない職務上の行為であっても)、政治家などが、その見返りとして報酬を受けることで処罰されることになるわけですから、これまで多くの汚職事件を起こしてきた「政治家とカネの関係」を断ち切るための画期的な法案です。

 この法案は、1998年に当時の自民・社会・さきがけの連立政権時代にも提案されていました。この時は、社民党と自民党の調整がつかず、このことが社民党の政権離脱の引き金になったという難物です。
 今回は、公明党が与党3党をリードして、ようやく成立への見通しが開けたことは、大きな成果です。



Q:「あっせん利得処罰法案」の内容はどんなものですか?
【適用対象】
 衆参国会議員とその公設秘書、地方議会の議員、知事や市町村長などの地方自治体の首長、と対象を拡大しました。

【対象となる行為】
 国や地方公共団体が結ぶ「売買、貸借、請負、その他の契約」と「特定の者に対する行政庁の処分」、さらに、道路公団や住宅供給公社などの国や地方公共団体が資本金の2分の1以上を出資している法人の「売買、貸借、請負、その他の契約」に関して、請託(特別の配慮を頼み込むこと)を受けて権限に基づく影響力を行使した、あっせん行為。
 これによって、問題になった交通違反のもみ消し依頼なども処罰の対象となります。

【法定刑】
 報酬として「財産上の利益」を収受した場合、国会議員や地方議会議員、首長は3年以下の懲役です。公設秘書の場合は、2年以下の懲役となります。

【罰則】
 国会議員、地方議員、首長が有罪になった場合は、5年間は選挙権・被選挙権が停止されます。さらにその後5年間は被選挙権が停止されます。



Q:「あっせん利得処罰法案」の与野党の対立点は何ですか?
次の4つの論点で与野党の主張が対立しています
論点 野党案 与党案 与党案の理由
請託を犯罪の構成要件とするか 要件としない 要件とする @通常の政治活動との区別が明瞭になる
Aあっせん収賄罪でも要件としている
B過去の事例からも立証を困難にするとは言えない

 ★解説へ⇒
私設秘書は犯罪の主体に含まれるか 含まれる 含まれない @私設秘書は公務員ではない
Aあっせん収賄罪にも含まれていない
B政治家の指示があれば議員本人の罪が成立する

 ★解説へ⇒
第三者供与の明文規定の有無 明文規定あり 明文規定なし @あっせん収賄罪でも処罰対象となっていない
A政治家の支配下にあれば議員本人の罪が成立する

 ★解説へ⇒
対象行為の範囲をどうすべきか 「職務に関する行為」と幅広く解釈 国および地方公共団体が締結する契約と特定の者に対する行政庁の処分に限定 @正当な政治活動との境界があいまいでは議員活動が萎縮する
A契約や処分に関するあっせん行為なら特定の者の利益を図るという性格が顕著

 ★解説へ⇒





解説:《請託(注1)を犯罪の構成要件とするか》

請託(注1)があったことを、この「犯罪を構成するために必要な条件」とするかどうかということです。

政治家が他の公務員に何かを働きかける場合には、
@誰かに何かを頼まれて、その人のためにいわゆるあっせん行為をする場合
A国民や住人の声を吸い上げて、日常の政治活動として働きかけを行う場合
 があります。

請託を要件としなければ、この両者の区別が不明瞭となり、処罰の対象があいまいになってしまいます。また、あっせん行為とは、通常は請託を受けて行われるものです。

 請託を要件とすると、立証するための事項が増えることは確かですが、一般的には具体的な証拠に左右され、請託の証明ができないことによって、あっせん利得の立証が困難になるということは、一概にはいえません。
※注1:請託(せいたく)⇒特別の配慮を頼み込むこと



解説:《私設秘書は犯罪の主体に含まれるか》

 税金で歳費を賄っている国会議員の公設秘書と、そうでない私設秘書とは区別するのが適当と考えます。また、私設秘書については、国会議員との関係の程度が様々であり、一律に処罰の対象とすることは不適当です。

 但し、国会議員が私設秘書を使って、あっせん利得行為をさせた場合は、国会議員自らの「あっせん利得罪」が成立することは当然です。




解説:《第三者供与(注2)の明文規定の有無》

 「あっせん収賄罪」(前述)では、第三者供与(注2)の規定はありませんが、政治家本人の支配下に入っている人たち(第三者)が利益を収受した場合は、政治家本人の収受とみなされます。「あっせん利得罪」においても同様の解釈が成立しますので、「あっせん収賄罪」とのバランスを考慮して明文化されませんでした。

 すなわち、第三者供与の規定はありませんが、政治家本人以外の第三者が利益を受け取った場合でも、政治家本人が事実上の支配力(実質的処分権)を持っていると認定できる場合は、政治家本人の収受とみなされ、「あっせん利得罪」が成立します。
 また、政治家の資金管理団体や本人が支部長を務める政党支部、私設秘書についても、同様に政治家本人が自己の意のままに支出等できる場合には、政治家本人が収受したものと認定できます。

 したがって、法文に第三者供与の規定がなくても不都合はありません。

※注2:第三者供与⇒政治家本人以外の第三者が利益を収受すること。



解説:《対象行為の範囲をどうすべきか》

 「行政計画や予算案に民意を反映させること」は、政治活動として公職者に期待されているところであり、政治活動の自由を保障する観点を踏まえて、処罰対象とはしていません。

 これに対し「契約や処分の段階でのあっせん行為」は国民や地域住民の利益というより、特定の者の利益を図るという性格が顕著であり、それで報酬を得る行為は政治活動の廉潔性(注3)と国民の信頼を失う度合いが強いため処罰の対象となります。

 例えば、「公民館を建てたい」という住民の要望を議会で主張することは法律に触れません。しかし、「この業者に建てさせろ」とのあっせん行為は国民や住民の利益を図るというよりも、特定の者の利益を図るという性格が強く、こうした行為によって報酬を得ることは、政治に対する国民の信頼を失うことになります。

 したがって、対象行為の範囲を「契約と処分」に限定しました。

※注3:無欲で、心や行いの正しいこと。清廉潔白。